開腹手術を始めるところだったため4時間後に来院してもらった子馬。
キャストも副木も当てていないので、トラックを覗いたときには悲惨な格好で立っていた。
急いで静脈麻酔して、抱えながら寝かせて、副木をガムテープでとめて、手押し車に乗せて倒馬室へ運びこんだ。
そこで取ったx線画像が上の2枚。
橈骨骨幹部中央での横骨折だ。
横骨折は斜骨折に比べて騎乗変位したり開放骨折にはなりにくい。
しかし、骨折部が短いためプレートの一箇所に力が集中しやすくプレートの破損につながり易い。
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この子馬は骨折部の頭側皮膚に穿孔創があり、開放骨折ではあったが、蹴られたときにできた傷のようだった。
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手術室で仰臥で手術する。
橈側手根伸筋の真上を長く切皮する。MIPO;minimally invasive plate osteosynthesis で手術することも頭に浮かんだが、変位もあり、キャストで有効に外固定することができない部位だし、よほどしっかり固定しなければならないので難しいだろう。
橈側手根伸筋と総指伸筋を分け、プレートを乗せるスペースを橈骨の頭外側に作る。
骨折端を合わせるが、なかなか完璧には合わない。
橈骨は頭側へ湾曲しているので、そのカーヴの判断も難しい。見えるのは骨折部の頭側だけ。
荷重がもっともかかるのは尾側なので、そちらにギャップができないことが大切だとされている。
大きな骨鉗子を使ってなんとか骨折部を合わせ、骨保持鉗子で仮止めし、x線撮影して骨折部の合致具合や、プレートの長さや湾曲を確かめる。
橈骨の外寄り頭側にブロードLCP11穴を乗せる。骨折部の近位と遠位のひとつ離した穴に皮質骨スクリューを入れてコンプレッションをかけて締める。
あとは遠位側と近位側にLHSを4本ずつ入れて固定した。
橈側手根伸筋の内側を開いて、もう一枚のプレートを乗せるスペースを作る。
骨折部近くは開き易いが、肘関節と腕節の近くは開けにくい。
橈骨神経を確認したいがわからない。
橈骨の頭側内よりにはナローLCP9穴を使うことにし、骨に沿うようにプレスで曲げるcontour。
2枚ともLCPなので、それぞれのLHSが当たらないように2枚目のLCPの位置を決める。
骨折部の両側の穴にはスクリューを入れないことにした。プレートの1箇所に力が集中するのは避けたい。
初めの皮質骨スクリュー1本でプレートを骨に押し付け、あとは骨折部の遠位と近位にそれぞれ3本のLHSを入れた。
骨折線は完全には消えなかった。
応急処置せずに時間が経ったために骨折端が磨かれてしまったせいもある。
横骨折だが、骨折面をまたぐlag screw かposition screw を入れるべきだった。
2枚のプレートの近位部がほぼ同じ位置になっているのはずらした方が良かった。
考えたあげく、覚醒室でフルリムキャストを巻いて肩甲部まで伸ばした添え木も付けた。
重そうだが、歩けるだろう。
橈骨骨折は遠位部以外はキャスト固定は禁忌ということになっている。
固定する力はほとんど期待できないからだ。
しかし、子馬がこの肢にフルに体重をかけたり、飛び回るのを防ぐ意味があるだろうと考えた。
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