5歳競走馬が跛行し、球節に骨片がみつかり、帰すのでよろしく、と競馬場から連絡。
ようすを訊くと、かなり歩様が悪い、とのこと。
球節の骨片骨折にしてはおかしいので、手術前によく診て、X線撮影しなければ、と思っていた。
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帰ってきた馬を牧場で検査してくれて、蹄骨骨折が見つかった、と地元の獣医さんから連絡。
競馬場でも蹄骨を撮影していたのだが、そのX線画像には蹄骨骨折は写っていなかった。
おそらく亀裂骨折で、それが輸送中に広がったのだ。
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中央部の内よりで、すでに関節面に至っている。
蹄叉側溝と重なるので、わかりにくい。
このあとは蹄底におもちゃの粘土を詰めて撮影することにした。
軸側(中心部)で割れたんだけど、伸筋突起があるので、内側へ割れていきました、という蹄骨骨折Type3。
もう5歳だし、骨折線が開き関節面に至っているので、hoof cast や装蹄療法といった保存療法で競走復帰できる可能性はない。
手術するならscrew固定だ。
owner も「やるだけやってダメならあきらめる」とのこと。
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蹄骨をscrewで固定するためには、蹄壁に孔をあけてscrewを入れなければならない。
馬の蹄は衛生的とは言えないので、術後も感染しやすい。
まず削蹄する。中手骨部まで毛刈する。
蹄の表面をヤスリや金属製ブラシで擦って削る。それから念入りに消毒してよく拭き取る。
その間で、中手骨部には駆血帯をつける。
蹄底に粘土をパックし、粘着性ドレープを貼り付ける。
注射針は1-2回は蹄壁に刺さる。X線撮影を繰り返し、bestなポジションを決める。
骨折線が関節面近くでは内側に寄っているので、screwの方向は斜めにする。
この馬、蹄骨の内側の”翼”には古い骨折がある。
蹄壁を10mmのドリルで孔を開けておいて、そこにaiming device をはめなおしてX線撮影してもらう。
このX線画像は蹄底を粘土で埋めている。
最初の画像よりずっと観やすい。
蹄骨を撮影するときにはルーティーンとして粘土パックをするべきなのだ。
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3.2mmdrillで蹄骨を貫いてしまわないように注意しながら穿孔した。
そのdrill孔全長を4.0mm drillで広げ、
手前は5.5mm drillで広げる。
そして、5.5mm self-tap screw を入れた。
何方向かでX線撮影し、骨折線の関節面側が圧迫されたのが確認できた。
蹄骨は皮質を持たない軽石のような骨だ。
5.5mm screw はよく使われる4.5mmより強い力で圧迫してくれることが期待できる。
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もう1本、蹄尖側にscrewを入れたい。
しかし、蹄骨の中心部の底には solar canal と呼ばれる太い血管が入った部分がある。
そこをdrilling してはいけない、とされている。
蹄骨は・・・・三日月のようでもあり・・・・フカヒレに似てるかも。
辺縁は薄い!
solar canal (蹄骨中央の透過域)を避けようと、2本目は関節面に近くなったかもしれない。
蹄壁のドリル孔は蹄壁修復剤で埋めた。
その上から、hoof cast を巻いた。
hoof cast の蹄負面は蹄壁修復剤で磨耗に耐えられるようにした。
麻酔覚醒起立後、馬の歩様は手術前より良かった。
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術後は、2ヶ月馬房内安静。2ヶ月少しだけ曳き運動。様子が良ければ、4ヶ月後からパドック放牧。
半年後、様子が良ければ騎乗運動を始められる。
途中でX線撮影したい。
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以前に、舠嚢骨の骨折をscrew固定したことがある。
蹄骨よりはるかに小さい。
あのときはX線透視装置があったのだったか・・・・・
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今は成書には、 O arm を使ったComputer Assisted Surgery でやるのが良い。なければ透視装置を使ってもできる。
みたいな書き方をされている;笑
うちには透視装置もCTもO arm も computer assisting system もないが、優秀な仲間がいる。
正中近くで割れた新鮮な蹄骨骨折は、screw固定を選択肢として考えていきたい。
成書には、発症から5日までなら、と書かれている。
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野も花の季節。