小型の馬属の四肢の骨折をトマススプリント-キャストで治療した、というリポートが今年のVeterinary Surgeryに載っている。
Modified Thomas splint-cast combination for the management of limb fractures in small equids.
小型の馬類の肢の骨折の治療のための改良されたトマススプリントとキャストの組み合わせ
デンマーク、コペンハーゲン大学からの報告。
要約
目的:
改良したトマススプリント-キャスト併用で治療した小型の馬類家畜の肢の骨折の治療と予後について記載すること。
研究のデザイン:
回顧的症例群。
動物:
畜主所有の馬とロバ。
方法:
2001年から2012年までの、肢の骨折と診断され、改良トマススプリントキャスト併用による外固定で治療した動物の詳細を、x線画像を含めた診療記録から調べた。
退院後6ヶ月以降については畜主や獣医師への電話相談から情報を得た。
結果:
9頭の馬と、4頭のロバは、脛骨骨幹部骨折(n=4)、尺骨骨折(n=3)、中足骨遠位(n=2)、中手骨近位(n=1)、橈骨骨幹(n=1)、踵骨(n=1)、大腿骨遠位成長板(n=1)の骨折と診断された。
追跡調査は12頭について可能だった。そのうち8頭(67%)は骨折から回復し、放牧できるようになった。
6頭は患肢の明らかな外見上の変形を起こした。
結論:
長骨骨折を起こし、運動能力を期待されない小型の馬属の限られた症例は、改良トマススプリント-キャスト併用による外固定で治療できる。
畜主には、この治療が命を助けるだけの手技だと考えられることを説明しておくべきだ。
Veterinary Surgery 2017; 46: 381-388
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まずModified Thomas splint-cast だが、特別なものではない。どうもわれわれが普通にトマススプリントと呼んでいるものをModified Thomas splint と考えて良いようだ。
もともとThomas splint は人の大腿骨骨折の治療のために100年以上前に開発された。
それを家畜での使用のために改良したのが、われわれが知っているModified Thomas splint だ。
それにキャストも巻くと、Modified Thomas splint-cast combination ということになる。
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INTRODUCTIONによれば・・・
馬の長骨骨折のほとんどでは、ORIF (Open Reduction and Internal Fixation ; 切開して整復し、内固定すること) が選択されている。
それは、正しく解剖学的な整復を行い、しっかりした固定を行うことで、早期の機能回復を可能にする。
馬の骨折治療の進歩に関わらず、感染、対側肢の蹄葉炎、癒合不全、インプラントの破壊、がいまだに起こる。
経費と結果を見比べて、オーナーの中には手術をこばむ人もいる。
しかし、外固定(副木やキャスト)は馬には単独ではめったに用いられることはない。
適切な骨折整復と不動化をできず、それゆえに、過剰な贅骨形成や骨癒合の遅延、あるいは骨癒合不全のリスクが高まるからである。
さらに、外固定の期間が長くなることで、擦過傷、腱の弛緩、対側肢の蹄葉炎などの併発症につながりやすく、それによって機能回復と本来の飼養目的に戻るのを妨げかねない。
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この症例報告で使用されていたModified Thomas splint はこういうやつ。
径1cmの鋼線を溶接して作られている。
近位の輪状の部分から30°傾けて肢の部分が付けられている。
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この報告では、Thomas splint を着ける前に、骨折を整復するために肢を引張るのに、
内側、外側、背側、掌/底側に粘着テープを貼り付けて引張っている。
良い方法かどうか、やってみたことがないのでわからない。
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ポニーの後肢をModified Thomas splint-cast combination (MTSCC)で外固定したところ。
飛節より遠位は、トマススプリントの後の棒に固定されている。
飛節自体は前と後の棒に固定されていて、腿部は前の棒に固定されている。
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右前肢につけたMTSCC。
キャストは腕節の上までは前と後の棒に固定されていて、腕節より上は後の棒だけに固定されている。
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さて成績は、
5歳 シェトランドポニー 152kg 内側関節面を含めた脛骨遠位の変位していない斜骨折 放牧可能 飛節が固まった。骨性の腫脹
2歳 ロバ 140kg 脛骨骨幹部近位の変位した斜骨折 放牧可能 骨性腫脹、外反、3年後再骨折
1歳 シェトランドポニー 112kg 内側関節を含んだ脛骨遠位骨幹の変位、粉砕骨折 放牧可能 骨性腫脹
0.5歳 ロバ 60kg 脛骨骨幹開放、変位、斜骨折 安楽殺 MTSCC除去2日後中足骨粉砕骨折
20歳 シェトランドポニー 115kg 変位していない尺骨骨折type4 追跡できず
12日齢 QH 65kg 変位していない尺骨骨折type3 放牧可能 競技で騎乗可能
9歳 アラブ 308kg 変位した関節を含めた尺骨骨折type4 安楽殺 腸炎、脇にひどい圧迫創
12歳 シェトランドポニー 157kg 中足骨遠位の粉砕骨折 放牧可能 骨性腫脹
4歳 ロバ 136kg 中足骨遠位の開放粉砕骨折 安楽殺 2週間後傷は治癒、骨感染の所見なし、オーナーの希望で6週間後殺
1歳 シェトランドポニー 100kg 中足骨近位の粉砕骨折 放牧可能 骨性腫脹
10歳 シェトランドポニー 100kg 踵骨骨折、飛節の脱臼・亜脱臼 放牧可能
0.75歳 ロバ 76kg 橈骨骨幹の変位横骨折 放牧可能 骨性腫脹
0.25歳 フリージアン 127kg 大腿骨遠位成長板の変位骨折(SH2) 放牧可能 速歩で跛行
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固定期間は、5週間から20週間。
5週間のは安楽殺症例。次いで短い6週間の症例2頭のうち1頭も6週間で安楽殺。もう1頭の6週間の症例は、変位していない尺骨骨折。これは治療せず温存でも治ったんじゃないか?
だから、固定期間は、それ以外の症例の8週間から13週間くらい、つまり2ヶ月から3ヶ月と考えた方が良さそうだ。
1頭が20週間(5ヶ月!!)と特別長いが、大腿骨遠位成長板のSH2損傷で変位していた症例。ゴテゴテになって固まったのだろう。跛行が残った。
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それでも、とても良い成績だと思う。
曲がりなりにも、12頭のうち9頭が放牧可能なくらいには回復している。
ロバがとくに成績が良いわけではない。
必要なときには、上手にMTSCCできるように準備をしておきたい。
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考察の末文では、
小型の馬類では(馬類であっても体重が重くないなら?)、経済的な問題で内固定手術や貫通ピンキャストが選択できないなら、MTSCCも選択肢である。
畜主には、この治療が、命を助けるためだけの手技で、放牧が可能になることが期待できる結果であること、を知らせておくべきだ。
とある。
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同じ馬類でも、サラブレッドは
競走馬にしなければならない馬がほとんどだし、
皮膚が薄いので長期のMTSCCに耐えるのは厳しいし、
蹄葉炎になりやすいし、
肢が長くてMTSCCしにくい、
のでトマススプリントキャストには向かない。
逆に個体価格が高いので、治療費をかけられことが多く、競走馬になったり、繁殖供用に問題を残したくないので、内固定手術を選択しやすい。
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春と夏にも痛くなった。
トマススプリントは勘弁してもらいたい。