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フレグモーネ 蜂窩織炎の治療

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フレグモーネ 蜂窩織炎は皮下織の細菌感染で、馬では良く見られる。

フレグモーネの治療をどうすれば良いか、馬の獣医さんが居ない地域の人から訊かれもしたので、整理しておきたい。

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考えておかなければいけないのは、よくある病態なのだが、こじらせると治らなくなるということだ。

皮膚が自潰を繰り返し、皮下織に肉芽が増勢し、下肢の感染と循環障害が慢性化すると完治は困難になる。

皮下織の感染だけだと考えていると、関節や腱鞘内に感染が波及して重症化することもある。

強い痛みが続くこともあるので、対側肢が蹄葉炎を起こすことがある。

強い抗生物質を使うので腸炎などの副作用も警戒しなければならない。消炎鎮痛解熱剤は胃潰瘍を心配しなければならない。

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細菌感染症なので、有効な抗生物質を選択し、攻撃的に使うべきだ。

原因菌を分離・培養したいが、こじれて自潰しでもしないと採材できない。

Staphylococcus aureus やStreptococcus equi zooepidemicus が原因菌として可能性が高い。

治療歴があったらE.coli など抗生物質が効きにくい細菌に替わっているかもしれない。

膿瘍化していると、嫌気性菌が関与しているかもしれない。

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抗炎症剤も使われる。

しかし、漫然と使い続けることはお勧めしない。

炎症はそもそも体本来の防衛反応で、熱も高い方が免疫能が亢進することが知られている。

とくに副腎皮質ホルモン剤は、抗生物質が効果をあげているのが確認できたときに、リスクより効果が期待できるなら、という条件付きで、1回だけの使用にとどめるべきだ。

病気の本態が細菌感染であり、副腎皮質ホルモンはまちがいなく免疫を抑制する。

私は、フレグモーネで副腎皮質ホルモンが投与されていて、膿瘍化した症例を何頭も診ている。

蹄葉炎も副腎皮質ホルモンの副作用で起こることがある。

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馬のフレグモーネが特有なのは、下肢がむくみ易い動物だからだ。

運動させないだけでも下肢がむくんでしまいがちで、下肢の循環の悪さが感染を助長し、治癒を遅らせる。

人ならむくみをとるために脚を高くして寝ていることができるが、馬はそうはいかない。

バンデージを巻いて下肢が過剰に腫れないようにしてやることは、その点で意味がある。

症状がひどくないなら曳き運動して歩かせることも効果がある。

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関節や腱鞘に感染が波及していないか注意する必要がある。

細菌性関節炎や細菌性腱鞘炎を起こしていたら、関節腔や腱鞘腔の洗浄や抗生剤の腔内投与が必要かもしれない。

フレグモーネが下肢だけなら、Regional Limb Perfusion が有効だ。

駆血帯で血行を絞め付けた遠位の静脈に全身投与する用量の抗生剤を投与し、一定時間(私は20分間にしている)そのままにする。

抗生剤が血管から滲み出し、駆血した部位より先が抗生剤漬けになる。

馬がじっとしていられるなら立位でも行うことができる。

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消炎鎮痛解熱剤を使っていないなら体温で経過や抗生物質の効果をモニターできる。

血液検査するなら白血球数、フィブリノーゲン、αグロブリンなども炎症の指標に使えるが、現在はSAA(血清アミロイドA)が急性炎症マーカーとしてとても優秀だ。

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きのうは、

4歳競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。重症。

当歳馬の上顎切歯骨骨折のワイヤー固定。放馬して親に蹴られたのだそうだ。

角膜炎の診察。

午後は、2歳馬の去勢。捻転式去勢棒で。

1歳馬の球節OCDの関節鏡手術。

2月生まれの当歳馬の突球のオキシテトラサイクリンRegional Limb Perfusion療法。

夕方、牧柵激突・顔面陥没骨折の連絡。数日後に手術することにした。

 

リンゴの花が咲きはじめた。

                   

 

 

 

 


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