
私と同い年の外科医による、よくある間違いや知っておくとためになるコツが書かれた本。
教わったことを鵜呑みにするのではなく、自分で考えて工夫すれば”こうなんじゃない?”となる。
楽しく読めた。
まあ、特に新しかったり、重大な問題の提起ではない。
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それと、この本の”例えば、縫合の丸針は回すな!”がコツとしてあげられているが、
それには私は異論がある。
回るから針が曲がる、と書かれているが、そうじゃないよ。
回そうとしなかったり、回し方がヘタだから針が曲がるんだよ。
組織に垂直に刺入し、最後まで針に垂直に力がかかるように回せば針は曲がらない。
それでも針が曲がるのは、縫いたい組織より短い針を使っているか、
抜くときに針の先端を掴んでしまって針が切れなくなっているか、どちらかだ。
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しかし、金言も多い。
ー医学にとって、統計学はあくまで道具のひとつであって、医学が統計学の下僕にされてしまっては本末転倒だ。
エビデンスを軽視して良いってわけじゃないけど、それが全てじゃない。
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ー布の裏面に注意
これは私もしばしば思う。
滅菌布をかけて滅菌エリアとして扱う獣医外科医が多いが、布の裏は洗浄、消毒、滅菌されていないし、布はいつまでもバリアにならない。
水平ならまだしも、滅菌布をかけた部位が立っていると、布の中で汚れが上から落ちてくる。
布をしっかり留めておかないと、布はずれるし、ずれる時には汚れも術部に運ばれてくる。
ドレーピングは衛生的な手術のための重要な技術だ。
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外科器械の使い方、なんかは私もこのブログに書いたことがある。
なんでもメスで切ってとか、止血なんてほとんどしない、とかいう獣医外科医は読んでみるといい。
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糸結びの項では、かえってヒト外科医がどうして手結びにこだわるのか訊いてみたい。
長い持針器を使ってでも器械結びした方が良いように思うけどな~
生産地の馬外科医は、見えないところで片手結びしないとならないことがあるので、手結びは必要だよ。
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腹腔洗浄の項はエンジンオイルの交換と比べられていて面白い。
私たちも腹膜炎の腹腔洗浄を年に何頭もやるから。
使った生理食塩液の量くらいしかカルテの記録に残せないが、洗えたかどうかは、
その馬の腹腔の状態や、
隅々まで洗う外科医の工夫や注意力によってずいぶんちがうと思う。
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「頭ごなしにおぼえてるんじゃ、ただの試験知識であって実践には全く役立たない。」
「ケチることを悪徳視するな」遅かれ早かれ日本の保険医療は破綻する・・・・
家畜共済制度もそうだろう。
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大動物獣医師も読んでみるといい。
われわれは開腹手術だってやるんだからね。
それにしては「外科基本手技」の”なぜなんだろう?”を考えることが少なすぎるのだと思う。
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そりゃ「考える人(ロダン)」も頬杖ついてるけどさ~