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Channel: 馬医者残日録
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Salmonella

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子馬が水様性下痢をして脱水が進行するので診てくれないか、との依頼。

数日前からで発熱もある、とのこと。

腸炎は伝染するかもしれないので入院させたくない。

輸液バッグを貸すから地元で治療したら、と提案した。

細菌検査もしていて結果待ち、とのこと。

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あとで、”Salmonella と結果が来た” と連絡が入った。

うちから?

診療で忙しく確認する暇もない。

家畜保健衛生所に連絡した方が良い。

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Salmonella 属は腸内細菌の一属で、強い病原性を示すことがあるので警戒が必要。

ほとんどはSalmonella enterica subsp. enterica が菌名になる。

菌種 enterica 亜種 enterica だ。

(そういう分類法、命名法になったのは1985年だから、私が大学卒業後だ;笑)

しかし、病原性と関係する抗原性、血清型により固有名が付けられている。

チフス菌は、Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhi だし、

動物からよく採れるネズミチフス菌は、Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhimurium となる。

菌名、菌種名はイタリック(斜体)で表記することになっているが、血清型は菌・菌種ではないので斜体にしないのだそうだ

(ややこしいんだよっ!)。

・・・・ブログの記事タイトルにはイタリックにする機能がないみたい

Salmonella属の細菌学上の分類や命名が整理されたのは2002年で、

現行の方法になったのは2015年だというから、ごく最近だし、これからも変更されるかもしれない;笑

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時間が空いて、細菌検査ブースを覗いて、例の検体の培地を観たら、コロニーが真っ黒。

硫化水素産生する細菌ではこうなる。

硫化水素産生する菌は、Proteus spp.など他にもあるが、この黒さは激しい。

うちにもSalmonella を確定するための凝集反応用の抗血清が置いてあるが、凝集反応をしたかどうか、担当者が不在でわからない。

シャーレをそのまま家畜保健衛生所へ送って、同定と防疫措置をしてもらうことになった。

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発症子馬は翌日には死んでしまったそうだ。

必要なら家畜保健衛生所で同居馬の検査もしてくれる。

サルモネラ感染症は古典的な伝染病なのだが、近年は発症事例は多くなく、あまり警戒されていないのかもしれない。

子牛や子馬が下痢をしても細菌検査をしないこともあるが、Salmonella などのような強い病原性と伝染力を示す病原体は、きちんと病原体を把握して対処しないと感染動物も助からないし、伝染して続発しかねない。

Salmonella 感染を疑ったら、ただいつものように検体を送るのではなく、検査施設に「かもしれない」と連絡してもらいたい。

それで、迅速な検査ができるし、菌量が多くない同居畜などでは選択培地の使用なども必要だ。

コクシジウム症を疑ったりして、ウンコだらけのビニル袋で送ってこられたりすると、検査で手や周囲を汚染させないように特別な注意も必要だ。

そして、発生牧場では防疫措置も必要になるので、Salmonella が分離されたら家畜保健衛生所の力を借りた方が良い。

血清型によっては家畜届出伝染病に指定されているので、獣医師には届出義務がある。

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あとは逸話と思い出話。

学生時代、研究室でホルスタイン雄子牛の牧場でゲンタマイシン経口薬の治験を手伝った。

当時、ゲンタマイシンは子牛の下痢によく効いた。

しかし、Salmonella が入っている牧場ではダメだった。

Salmonella は腸内だけでなく全身に侵入し敗血症を起こすので、ゲンタマイシンの経口薬で腸内のSalmonella を叩くだけでは効果が期待しにくい。

Salmonellaは細胞内寄生菌なので、脂溶性がないアミノグリコシド(ゲンタマイシンも含まれる抗生物質の分類)は細胞内に入りにくいので効果が期待しにくい。

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この地域では、水害のあとにSalmonellaが続発することがある。

堆肥場などの汚染部からSalmonellaが流れ出て、弱い子牛や子馬に感染するのだろう。

数年前の台風による水害の後にも牛農場と馬牧場でSalmonella症が発生した。

人の食中毒でも1-3割をSalmonella症が占めているとされている。

保菌や排菌している個体が居ると、感染を防ぐための注意はたいへんな作業になる。

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死亡畜焼却場に下痢で死亡した子馬が運び込まれていて、解剖を頼まれていたわけでもないのに死骸の脱水のひどさに直腸便を検査して、Salmonellaを確認したこともある。

「チフスなんだよ」

本当のチフスはSalmonella Typhi (こういう表記も認められている。Salmonella は斜体、Typhi は菌種ではないので斜体にしない)の感染症だけだが、類似の病態も起こりうると考えた方が良い。

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USAの獣医科大学獣医教育病院でもSalmonella は特別な注意をしている所が多い。

私が訪れた頃(28年前!)は入院馬は全頭SalmonellaをPCRで検査していて、陽性だと隔離厩舎に入れていた。

のちに、PCRのみ陽性で、培養が陰性で、症状がないなら隔離する必要まではないのではないか、という学術報告も出ていたと記憶している。

獣医教育病院が汚染されて院内感染が起こると病院を閉鎖して消毒と検査を繰り返すことになる。

あの有名なNew Bolton Centerも閉鎖されたことがあったはずだ。

よくあるのはFood Animal Section へ牛がSalmonella を持ち込み、それがEquine やSmall Animal のSectionへ広がる。

One Floor でつながった構造の病院が多く、多くの人が行き来するので厄介だ。

消毒用マットや踏込み消毒槽は効果が疑問視されている。

やるとしたら、靴を履き替えないとダメだ。

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ジパング(2) (モーニングコミックス)   かわぐちかいじ 講談社

現代のイージス艦の兵器が、太平洋戦争時の海軍にどれだけの戦闘能力を発揮するか?

それは日米戦争の流れを変えることになるか? 

しかし、そもそも歴史を変えるようなことをしても良いのか?

タイムスリップ戦争ものとして物語は進みかけるが、太平洋戦争の最中に未来を知ってしまった帝国海軍参謀は単独で暴走を始める。

打ちつくせば補給できず、壊れれば修理できない近代兵器より、未来を知ってしまうことの方が大きなことなのかもしれない。

そして・・・・

 

 

 

         

 

 

 

 

 


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