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Channel: 馬医者残日録
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分娩3日間の不調 part2

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3日前に分娩し、不調が続き、今日は疝痛を起こしている18歳の繁殖雌馬。

子宮穿孔を確認し、開腹手術して子宮穿孔を修復し、腹腔洗浄することにした。

しかし、一般状態が悪い。

手術は北米馬外科専門医Y先生と研修に来ているG先生にやってもらう。

左子宮角におそらく子馬が後肢で蹴り破ったであろう穿孔創が見つかった。

大結腸が便秘様で腹腔洗浄の邪魔になるので引っ張り出した。

生理食塩液を30リットルを、5リットルずつ入れて、出してを繰り返して腹腔を洗浄した。

32Frトロッカーカテーテルを腹部正中に留置する。

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手術中に20リットルほど静脈内輸液した。

しかし、口粘膜の色は紅潮したまま。舌の粘膜は不潔感。

排尿はわずかにしかない。

覚醒室では口粘膜の赤さは減退した。

高齢なので吊起帯を着けて起立補助する。

しかし、麻酔終了して1時間以上経っても馬は体を起こそうともしなかった。

輸液を再開して、反転させて、また座らせようとするが、なかなか座れるようにならなかった。

動脈血ガスを調べたら酸素分圧が低いので酸素吸入して、

血液のイオン化カルシウムが低いのでカルシウムを点滴に入れて、

体を起こさせて、バケツで水を飲ませた。

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麻酔終了から2時間。

獣医師6人がかりでやるべきことをやって、

馬は立ち上がった。

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家畜共済の点数運用で、

開腹手術には2リットルまでの輸液が含まれているから請求できない、とか、

腹腔内に投与する薬剤も含まれている、とか、

麻酔術には吊起行為が含まれている、とか、

根拠も示さず、何を言うのかと思う。

しまいには、開腹してから予後不良と判断したら手術費用は給付対象外だとまで言う。

放っておけば死んでしまう馬を助けようとしたこともない者に何がわかる。

腹膜炎を起こして、PCVが60%を超えている馬を誰が助けようとする。

死亡廃用事故を減らしたかったら、それをやっている者に少しは敬意をはらったらどうだ。

                 -

この馬は翌日、親子で退院していった。

 

 

 

 

 


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