年間100頭以上の馬の腸管手術をする馬病院は世界的にも多くない。
うちよりはるかに多くの腸管手術をしてきたHagyard-Davidoson-McGeeのSpirito先生に尋ねたことがある。
”疝痛は開腹手術の判断が難しいでしょ?”
”牧場でフルニキシン投与する。痛かったらHagyardへ連れて来られる。来院してまたフルニキシン投与する。
それでも痛かったら手術だ。それは俺の仕事じゃない。俺は手術準備できた所へ入っていって手術するだけだ。2時間で終わる。”
達観だし、ある面真実だろうが、尊敬できる話しではない。
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フルニキシンを投与しても痛いひどい結腸便秘や盲腸鼓張はあるし、子宮動脈破裂、胃潰瘍、腸炎などもフルニキシン投与を繰り返すことがある。
それらのほとんどは開腹手術の適応ではない。
第一、フルニキシンを投与した様子だけで判断するなら獣医師はいらない。
今は牧場がバナミンペーストを経口投与できる。
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フルニキシンを投与しても痛みが治まらなかったら多くの獣医師が鎮静剤を投与している。
「落ち着きましたね。様子を観ましょう」、と牧場を離れてしまう獣医師が多いが、致命的な疝痛の多くには鎮静剤が”効く”。
結腸捻転のかなりがそうだし、小腸捻転でも鎮静されるし、結腸左背側変位や回盲部重積などはフルニキシンだけで鎮痛されることが多い。
鎮静剤投与して馬落ち着いたら、そのタイミングで、直腸検査、超音波検査、胃カテーテルの挿入をしてみるべきだ。
直腸検査で、膨満した結腸の壁が肥厚していたら疝痛が落ち着いていても馬病院に運ばなければならない。
小腸ループに触るときもそうだ。
結腸左側変位をほとんど確定診断できることもあるだろう。
超音波検査でも、腹水の増量が判断できるだろうし、膨満した小腸や結腸壁の肥厚を確認できるかもしれない。
とくに腹腔容積が小さく、体壁が薄く、直腸検査できない子馬では超音波検査は必須だ。腸炎も多い。
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馬病院へ運ぶ判断のタイミングは距離にもよる。
遠い牧場ほど運ぶのに慎重になりがちだが、遠い牧場ほど早く判断しないと重度の結腸捻転などでは手遅れになる可能性が出てくる。
ひどい痛みではない結腸捻転が経過の途中からひどく痛くなって、開腹してももう手遅れということがある。
一方、腸鼓張でも最初の1-2時間は転がりまわってフルニキシンも効かないことがある。
判断は適確に、早く、速く。
疝痛は3時間を超えると手遅れで予後不良になる症例が出てくる。
そういう症例は、初診で判断しなければ間に合わない。
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結腸捻転、手遅れ。
前夜も疝痛だった。
翌朝、来院。
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小腸捻転。腹部膨満も壊死の状態もひどい。
前夜も疝痛で、獣医師がフルニキシン投与した。
夜中に牧場がフルニキシンペーストを飲ませた。
翌朝、来院。
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子馬の小腸捻転。手遅れ。
朝、疝痛を発見。顔を擦りむいていた。
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岩壁を攀じ登るのは難しいが、
カタツムリには容易。