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橈骨骨折で馬整形外科医が考えていること 2

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整形外科の教科書には、横骨折は牽引力が働いたときに起こる、とされている。

が、そんなことはかえって珍しいだろう。

子馬の骨は弱いので、横から蹴られるとポキリと素直に横に折れる。

どうして折れたかを考えておくことは、どのような内固定をするか、術後管理をどうするかの上で必要になる。

例えば親が蹴る馬なら再発防止を考えなければいけないし、

大きな荷重がかかって折れたのなら、その荷重が働かないような術後管理を考えなければならない。

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横骨折だと整復が比較的簡単なので、MIPO(Minimally Invasive Plate Osteosynthesis)でやれないかチョット考えた。

しかし、かなり強度がある正確な固定をしないとならないのでやめた。

橈骨の全長にわたって切開する大手術になるので感染が怖い。

子牛のこういう骨折ならMIPOでいけるかも。

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プレートを骨に沿うように曲げる contour のはとても重要。

 橈骨は名前の如く、撓んでいるのだが、プレートを乗せる頭側はそれほどカーヴしていない。

馬が立っているとき荷重がかかるのは尾側なので、尾側の骨皮質はすきまなく密着させる必要がある、とされている。

ただ、私は、馬が歩いたり、立ち上がったりするときには橈骨の頭側に大きな荷重がかかることがもっと強調されるべきだと考えている。

そもそも橈骨が撓んでいるのは、歩いたり、立ちあがったりするときの尾側へへし折る荷重に耐えるためだろう?

それでもプレートは頭側に乗せることになる。

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かつての成書には橈側手根伸筋と総指伸腱の間を切開し、1枚目のプレートは頭側、2枚目のプレートは外側に乗せる方法が記述されていた。

最近は2枚目のプレートは内側に乗せる馬整形外科医が多いようだ。

確かに、馬の前腕部は内側は筋肉がなくてプレートを乗せやすい。

私は橈側手根伸筋の上を切皮し、橈側手根伸筋の内外を鈍性に開くことでプレートを乗せるスペースを橈骨の頭外側と頭内側に確保した。

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頭側へ入れたのは11穴ブロードLCP。

骨折部の穴にはスクリューを入れないようにしようと思っていた。

そのことで、プレートの1ヶ所に負荷が集中するのを避けたかった。

骨折部近くの穴に皮質骨screwをロードポジションで入れてコンプレッションをかけた。

あとは遠位側、近位側それぞれにLHSを4本ずつdouble cortical で入れる。

骨皮質8箇所にLHSが働いているのでかなりの強度のはず。

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頭内側には9穴ナローLCPを乗せた。

まず皮質骨screwでプレートを骨に押し付ける。

LHSはプレートを骨に押し付ける働きがない。今はpush-pull device と呼ばれるLCPを骨に仮に押し付けておく器具が考案されているのだが・・・高そうだ。

あとは遠位側と近位側に3本ずつLHSを入れた。

1枚目のプレートのLHSと当たらないように2枚目のプレートの位置には気を使う。

骨折部近くの2つの穴にはスクリューを入れなかった。

プレートへの荷重が分散され、プレートの破損のリスクを減らしてくれるはず。

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本当は骨折部を貫くようなscrewを少なくとも1本入れたかった。

lag screwでなくて、position screwでも構わない。

しかし、横骨折に斜めにscrewを正確に入れるのは難しいし、尾側の皮質骨をきずつけることは避けたかった。

入れるとしたら、横方向からだったろう。

そのscrewは、芯は3.2mmとは言え、骨折部でのプレートの破損のリスクを減らしてくれるはず。

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子馬にこれだけのインプラントを入れる手術では感染防止に気を使わなければならない。

術創感染を起こしたら、骨癒合は遅れ、インプラントは緩み出し、抗生物質治療が長引き、かなり厳しいことになる。

術中は抗生物質入りの生理食塩水で、何度も術部をフラッシュした。

Dr.Richardsonは抗生物質を溶かした骨セメントをプレートの周りに入れている。が、PMMAは高いので・・・私はマイシリンをベトベトに入れている。

切り札に使う抗生物質は手術のときには使いたくない。

下肢部ならLimb perfusionする方法もあるが、前腕部だと難しい。

翌日からはアンピシリンを1日2回、カナマイシンを1日1回投与してもらった。

39度になる熱が続いてかなり不安があった。

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キャストをするかどうかはかなり迷った。

橈骨骨幹部の骨折の手術後はキャストは禁忌とされている。

有効な固定ができず、かえってキャストの近位部へおかしな荷重がはたらく危険があるからだ。

しかし、子馬はキャストをしておかないと痛みが消えたら飛び跳ねる。

それで、フルリムキャストを巻いて、肩甲部まで伸ばした添え木を付けた。

橈骨骨折では応急処置のときもこのように添え木を肩甲部まで伸ばしてやる必要がある。

この添え木は、肢全体が外へ開いてしまうのを防いでくれる。

子馬にキャストは長くは巻いていられない。

屈腱が緩んでそれが致命的な問題になるからだ。

1週間後にキャストをはずして、R-Jバンデージに替えた。

傷には滲出もなく、腫れもなく、安心した。

そのときも腕節の動きを抑えるように添え木を付けた。

添え木は数日ではずしてもらい、バンデージもずれてはずしてもらった。

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馬整形外科医がディスカッションしなければいけないことは、とてもマニアック。

内固定をしない獣医師にはほとんど関係も興味もないことだし、

ヒトの整形外科医とは患者の条件が違いすぎる(麻酔が覚めるとすぐに立って歩き回るんです。病室はワラが敷いてあって、そこでウンコするんです。気に入らないと医者を蹴るんです。)

限られた時間の学会発表や、字数の制限がある症例報告の形式にもそぐわないように思う。

もっと内固定をする者だけで「あ~でもない」「こ~でもない」と検討しあう機会があった方がイイ。

他人の失敗例だって大いに参考にできる。

なにせまだ症例数が少ない。

あちこちで同じ失敗を繰り返すより、人の経験からも学んだ方が良い。

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今朝は入院している結腸捻転馬2頭の診察と検査と治療。

午前中は、2歳馬の去勢。

1歳馬の跛行診断とx線撮影と、その結果によるステロイド注入。

血液検査のあと、

2歳馬の跛行診断とx線撮影。

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美脚?

                       

 


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