症例報告を投稿して、大幅な修正を要する、という結果が帰ってきたので、修正稿を作成して継続審査へ送った。
「査読」について考えることがあったので、現代の学術論文の査読がどのように行われているのか、どのように行うべきなのか、本を買って読んでみた。

著者は年間50程度の査読を行う細胞、生命科学分野の研究者。
権威ある学術誌の編集者でもあり、年間100~150件の論文を取り扱う。
まず、hotな研究分野の学術誌の実状を知って驚いた。
世界中の研究者がしのぎを削り、研究論文を投稿し、それが査読され、掲載される。
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査読せぬ者、査読誌に投稿すべからず。
peer review と呼ばれる(ここではpeerは仲間だろう)査読は、研究者たちのたいへんな負担になる。
しかし、その労を嫌うなら、自分も査読誌に投稿して人に負担をかけるべきではない。
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査読者のときと著者のときで人格を変えない。
review for others as you would have others review for you
妙に偉そうで、著者を見下したコメントを書くreferee がいるが、人格を疑いたくなる。
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reviewer は
①正当性
②論理性
③新規性
④重要性 (インパクトや興味深さ)
⑤普遍性
⑥倫理性
⑦論文の体裁
を評価する。
雑誌によって規準が異なるのは④の重要性。
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現代の査読システムも、多くの課題と問題を抱えており、別な方法も試されている。
電子投稿(インターネットで論文をファイルとして投稿する)できるようになって、プリントアウトや郵送の手間はなくなった。
査読は、著者も査読者もわからないようにしてダブルブラインドで行っている学術誌もある(獣医臨床分野では知らない)。
査読後に掲載されるのではなく、ネット上に論文を公開し、査読を受けたあと然るべき学術誌に掲載する、という方法も試されている。
COVID-19に関する研究などは、時間との勝負だ。査読など受けていては研究成果の発表もその応用も遅れてしまう。
いち早く公開され、reviewもまた公開で行われ、その間にも情報は活用され、問題があれば取り下げられたり、認められれば学術誌に掲載される。
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この本の第二部は「特別座談会」になっている。
医学・生命科学分野の研究者4名が、査読のリアルについて語っておられる。
残念ながら臨床医学の状況ではないのだが、最先端分野の研究者の研究、発表、学術誌掲載、がどのように行われているかわかる。
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第三部は「査読例文集」。
これは、ときどき英語でコメントや rebuttal letter (修正稿につける letter )を書かなければならない私には役に立つだろう。
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大動物臨床の分野も、学術、学問として成り立っていくためには調査・研究、論文、学術誌掲載、が続いていかなければならない。
でなければ、徒弟制度か、伝統芸能になってしまう。
それを支えているのは査読システムだ。
若い大動物臨床の獣医さんたちも大いに研究報告や症例報告を書いて、学術誌に投稿し、そして査読を頼まれたら、物怖じしたり面倒がったりしないで、査読の労をとってもらいたい。
自分の勉強にもなるし、自分たちの分野に貢献できるし、が・・・・それ以外には見返りはない。
図書券くれた雑誌があったかも;笑
査読にかかる時間に比べれば、少々の見返りでは割に合わない。
査読を引き受けるのは、世の中に貢献するためのボランティアであり、自分も査読誌へ投稿することによる義務だからである。
日本の獣医臨床での査読のレベルが低い、ひどいなら、そもそも症例報告の数があまりに少ないからかもしれない。
自分では投稿しない者が査読者になると、重箱の隅をつついたり、的外れな指摘、時代遅れの指摘、杓子定規な指摘、を重ねることになるのだろう。
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獣医学教育の中で、学術論文、症例報告の書き方とともに、査読への対処、査読の方法、マナーも教えて欲しい。
学部教育が無理なら、せめて大学院教育や専門医教育では教えるべきだ。
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風が吹き、雨が降り、一気に葉が落ちた。