私が居ないときに来た症例。
分娩中に直腸が破れ、肛門から腸が出てきたのだそうだ。
すぐに来院し、直腸は開創器を入れたら肛門括約筋を切らなくても縫合できたとのこと。
そのあと開腹手術し、腹腔内を洗浄した。
腹腔内には植物繊維が確認された。
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その馬は、もう術後治療も終了し、発熱もなく、経過良好とのこと。
私も以前に分娩中に直腸穿孔した馬を直腸を縫合修復して助けたことがある。
その時は幸い腹腔内に糞塊は漏れなかったようで、開腹しての腹腔洗浄はしないで済んだ。
その症例は、北海道獣医師会雑誌に短報として掲載されている。
自分自身でも記憶はあいまいになっていくので、記録を残しておくのはだいじなことだ。
もちろん同様の症例を経験する後生の獣医師にも役に立つ。
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糞便で腹腔が汚染される、されている、ことはしばしばある。
胃破裂もそうだし、
小腸穿孔もそうだし、
盲腸便秘で盲腸が破裂することもあるし、
胎動で結腸が破裂することもあるし、
異物による穿孔、腸間膜裂による壊死、で小結腸の内容が漏れることもあるし、
直腸も、直腸検査、分娩、種付け中のペニスの誤挿入、などで損傷することがある。
子馬でも、胎便除去の失敗、浣腸、などで直腸穿孔がおきることがある。
ひどい腹膜炎が起こると予後は悪い。
今まで、小腸穿孔した馬が助かった記憶はあるが、腹腔内に糞便や植物繊維が目視できる症例はあきらめてきた。
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特に、胃内容や小腸内容とちがい、大腸の内容は含まれる細菌の量が桁違いに多いのだろうと思う。
細菌は胃酸でかなりが殺されるし、胆汁は胃酸を中和するが腸内細菌以外は発育が抑制される。
小腸内容は液状あるいは粥状のままどんどん送られる。
しかし、盲腸や結腸は発酵槽で細菌の増殖に適した環境になっている。
そして小結腸では水分が失われ濃縮される。
だから、大腸内容による腹腔汚染は、胃液が漏れたり、小腸内容が漏れるより腹膜炎は重篤になるし、予後は悪いのだろう。
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さて、直腸便で腹腔が汚染された馬が本当に助かるか、
長期に生存し、繁殖供用に耐えられるか。
もし、助かるならその程度はどこまでか?
注目してみていきたい。
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あちこちに相棒の思い出が残っている。
居ないことが、ただただ寂しい。