ソルビーシロップ(ピランテル製剤)がまだ販売されていた頃、駆虫すると死んだ回虫が詰まるのだろう、疝痛を示して、翌日には馬房内でうどんの丼をひっくりかえしたように回虫が出ることがあった。
疝痛がひどかったり、治まらなかったりすると、手術に連れて来られることもあったが、
小腸を切開して詰まっている回虫を排泄させても、癒着により1年後に生きている馬は半数足らずだった。
重積を起こしていて、小腸を切除・吻合した馬は、長期生存率はもっと低かった。
考えられる理由は、先日までに書いた。
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最近は、イベルメクチンでしか駆虫されておらず、回虫が生きていて疝痛を起こしている子馬が多い。
重積を起こしていることがほとんどなのだが、手術しても成績はよろしくない。
以前の死んだ回虫によるパターンよりさらに悪いと感じている。
手術している最中、手術したあと、も回虫が悪影響を及ぼすからだ。
細かい理由は、先の記事に書いた。
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先日、子馬の疝痛が連れてこられた。
イベルメクチンで1回駆虫されているが、フルモキサールはまだやってない。
やらなければと思っていたけど、子馬が下痢したりで、やっていなかった、とのこと。
超音波で観ると小腸が膨満している部分があり、中で回虫が泳いでいる部分もあった。
ただ、腹底で観ても、右膁部で観ても、重積像は見つからなかった。
(小腸重積を起こした部分は重いので腹底で見えることが多い。
空腸回腸が盲腸へ重積すると右膁部で見えることが多い。)
フルモキサールで駆虫して様子を観てもらうことにした。
翌日の分もフルモキサールを渡しておいた。
そして、他の子馬もすぐ駆虫するようにアドバイスした。
翌朝、担当の獣医師に電話をしたらまだ痛がっている、とのこと。
しかし、翌々日には回虫が排泄され、疝痛もおちついたようだった。
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もう20年も前、回虫症で疝痛を起こした子馬が入院し、重積は起こしていないようだったので開腹手術はせず様子を観たことがあった。
腸管手術しても予後は良いとは言えないことを知っていたから。
2日後くらいだと思うが、回虫が排泄され、疝痛は落ち着いたが、子馬は死んでしまった。
回虫が詰まっていた部分が壊死したのだろう。
「入院させているのに、どうして死んでしまったんですか?」と牧場の社長に聞かれたが、
「正しい駆虫をしないからこうなったんです」
「死んでしまった子馬は仕方がない。同じことをしていたら他の子馬もこうなりますよ」と答えた。
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回虫が疝痛を起こすほど増えてしまったら、子馬も、牧場も、獣医師も、辛い判断と経験をすることになる。
何度も、何度も、毎年、このブログにも書いている。
正しく、有効な、駆虫を。
そして、駆虫だけに頼らない寄生虫対策を。
子馬の回虫症多発時季は、9月から、とされている。
私の経験ではもっと早いけどね。
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園内一周に疲れて出口へ向かっていたら、たまたまキリンのモグモグタイム。
キリンは馬医者にとってもとても興味深い動物だ。
頚や肢が長い馬を選抜してきたがゆえのサラブレッドの障害を考えるとき、
じゃあキリンはどうなってるの?と思うからだ。
動物園でキリンに高いところで採食させずに育てるとキリンの頚は少し短くなってしまうらしい。
馬は地面の草を食べて生きてきた動物だ。
私は、「飼い桶は胸の高さに吊る」は、望ましくないんじゃないかと昔から考えている。