朝5時に疝痛が始まった19歳の繁殖雌馬。
痛み止めや鎮静剤で楽になるが、切れると滾転するとのこと。
7時半に来院したが、血液検査で異常なく、鎮静剤で痛みが消えたので入院厩舎で様子を観ていた。
私は、朝、除雪していたら、厩舎で「やっぱり転がるんですけど」と呼ばれた。
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超音波検査をもう一度やるがはっきりした異常はなし。
直腸検査でも膨満した腸管や、腸紐の緊張はなし。子宮捻転、子宮周囲の出血もわかる範囲ではない。
「もう4時間強い痛みが続いているので、開腹しましょう」
高齢馬なので、有茎脂肪腫が巻きついたなどというのは大いにありうる、と考えていた。
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開腹すると、色が変わった小腸に辿りついた。
根元を探ると、細い紐状のもので縛られたようになっている。
引き出せないので、腹腔内に鈍端の鋏みを入れてブツッと切った。
変色した小腸を引張りだせるようになり、その近くの腸間膜には脂肪腫が付いていた根元らしき部分があった。
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空腸下部から回腸が傷んでいるが、回腸動脈には拍動があり、空腸も傷んでいる部分は短い。
研修の先生に助手をしてもらって、切除する部分の腸間膜の血管を結紮する。
回腸に腸鉗子をかけて切断する。
粘膜と粘膜下織はうすい赤紫色だが、筋層は変色していないので大丈夫だろう。
切除する部分の空腸を下に垂らして廃液ホースとして利用して、膨満した上位の空腸内容を捨てる。
吻合する部分の空腸に腸鉗子をかけて切断する。
こちらは健全かと思ったら、粘膜と粘膜下織は変色していた。
しかし、指ではじくと収縮するのが確認できた。
その部分で端端吻合した。
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高齢馬なので、吊起帯を付けて覚醒起立させた。
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術前はPCVは30%台だったが、術中に10リットルほど腸内容を捨てたので、術後は早めに点滴を落とす。
メトクロプラミド(蠕動亢進剤)も入れている。
数時間、ときどき前搔きするのが心配だったが、6時間後には食欲もあるようだった。
排尿するようにもなった。
翌朝には食欲も強くなり、ハンドフィーディング(手渡しでの給餌)を始めた。
午後、退院していった。
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妊娠末期の馬だったので、回腸が完全に壊死して回盲部を引っ張り出さなければいけなくなるとたいへんな手術になるところだった。
高齢馬なので、状態が悪くなると回復も心配だ。
3時間以上強い痛みが続いたら、血液検査、直腸検査、超音波検査で異常がなくても開腹することを考えた方が良い。
White先生が教えてくれた。
「疑ったときには何かある」
そう、何もないのに激しく疝痛することはありえない。
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