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Channel: 馬医者残日録
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分娩徴候がない帝王切開仔はなぜ助からないか?

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十二指腸破裂の母馬から緊急帝王切開して引っ張り出した子馬。

すでに予定日を1ヶ月ほど過ぎていたので可能性はあるかと考えた。

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帝王切開してもすぐには臍帯を切らず、母馬にオキシトシンを投与して、子宮が収縮するのを待った。

臍帯を切り離し、気道内を吸引して羊水を排泄させた。

気管チューブを挿管して酸素吸入した。

感染予防に抗生物質も投与する。

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カロリーと電解質が入った輸液をした。

経鼻胃管を入れて、初乳を1時間に50mlずつ、全量では1リットル以上給与した。

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USAカリフォルニア州立大学のMadigan教授はfoal squeezingなる方法を提唱している。

それもやってみた。

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Madigan先生はある種のneurosteroid 神経ステロイドが、胎仔が子宮内で激しく運動しないように、目覚めないように働いていること。

そして、その神経ステロイドを抑えて目覚めさせるためにはallopregnanoloneアロプレグノンが有効だと言っている。

だから、加齢性脱毛症の薬プロペシアも投与した。

2.5mgずつ朝晩、ということなので、1mg×3錠ずつ朝晩、ミルクに混ぜて投与した。

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次の日には、子馬は自分で伏臥するようになり、立ちあがりたいそぶりもみせるようになった。

しかし、お腹が張ってきて、ミルク給与は一旦中止せざるを得なかった。

消化管の機能が充分ではないのだ。

肺の聴診音もまともではなかった。クーとかプーとか聴こえる狭窄音があり、無気肺部が大きいのだろうと思わされた。

心拍はずっと100を超えていた。

何度か立たそうとしてみたが、後肢がまったく力が入らない。

寝ていても後肢は尾方向へ伸びたままで引き寄せることはなかった。

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徐々に弱ってきて、娩出させて3日目の月曜日、状態も悪くなり、あきらめた。

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大結腸内には胎便がかなり残っていた。

腸管が動けないのだ。

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肺は思った以上に含気していた。

しかし、充分ではない。

動脈血の酸素分圧は正常では100近いはずなのに40ほどだったそうだ。

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筋変性らしき所見もあった。

皮下に黄色い膠様浸潤があり、筋肉の色が淡い。

CPKは1000を超えていた。

白筋症と言うほどではないが、骨格筋の酸化的傷害なのだろうか・・・

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生まれてから何度か行った血液検査で白血球数はずっと2000台。

免疫機能も目覚めていないのだ。

生化学検査ではBUNは高くないもののクレアチニンは2.9mg/dlだった。

腎機能も低い。

あれだけ手間をかけて初乳を与えたのに蛋白は3.7g/dlで、低γグロブリンだった。

吸収する能力が低いのだ。

ビリルビンは9mg/dlを超えていた。

肝臓も働きが悪いのだろう。

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生まれる準備ができていない子馬を帝王切開で引張り出して助けるのはとても難しい。

心臓も、肺も、消化器も、腎臓も、免疫系も、目が覚めず、働かないのだ。

そして、体の機能が働かないままだと、感染を受け、栄養を採れず、循環がうまく行かず、呼吸がうまく行かず、排泄がうまく行かず、生きていけない。

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オラは「ゴハン」って聞くといつでも飛び起きるけどナ~

 

 


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