夜、難産で起こされる。
初産の馬が産気付いたが、(仔馬の)頭しか触らない、と言う。
正確には、「頭しか触らないと牧場が言っているので、まっすぐそっちへ行かせたい」との連絡。
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来院して、枠場に入れて、鎮静剤を投与して、両腕節を屈曲しているので、片方を伸ばしたが、初産馬で枠場の中で蹴ろうとする。
怒責するし、産道は狭いし、仔馬はまだ生きているので急ぎたいので、全身麻酔することにする。
全身麻酔下で後躯を吊り上げて、もう片方の前肢を伸ばす。
頭も耳から来ているので、おでこを押し込んで、顎と鼻っ面をひっぱって整復する。
あとは、引張って出すだけ。
が、引っ張り出した仔馬の腕節は120°くらいまでしか伸びない。
球節も固い。
これでは、立てるようにならないので、安楽殺した。
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朝、7日齢の仔馬が食道梗塞のようだ、と電話。
来院してみると、もう立てないが、気道閉塞はない。
ただ、口粘膜はチアノーゼがあり、心拍は100を超えている。
抑えていないと寝たまま四肢をバタバタさせる。
何だ??
超音波で腹部を観ると、小腸がひどく分厚く見える。
しかし、暴れ方は疝痛というより意識障害がある。
ごく少量の麻酔薬を投与して、入院厩舎へ運んだところで死んでしまた。
剖検すると、空腸が2箇所で10cm以上重積していた。
おそらく敗血症で全身状態が悪くなった中で腸蠕動がおかしくなり重積を起こしたのだ。
臍が腹壁の内外で腫れていて、切ってみると、一部に膿があった。
臍から感染したのだろう。
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午前中、新生仔溶血性黄疸で治療していたという仔馬が死んで運ばれてきた。
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25日齢の仔馬が、以前から呼吸が苦しいとのことで診察と検査を受けに来た。
X線撮影すると、気管が胸腔へ入った部分で5cmほどにわたって潰れている。
胸前は腫れていて、超音波検査すると膿瘍だと思われた。
しかし、気管がひどく潰れているのは胸腔内なので、胸前だけの問題ではない。
左右の胸腔を超音波でスキャンすると、フィブリンを含んだ胸水が溜まっているのが見えた。
予後について飼い主さんと相談して、あきらめる。
剖検では、
胸腺からと思われる径10cmほどの化膿巣、肺リンパ節の化膿、臍静脈内の膿の貯留、右内腸骨リンパの化膿、が確認された。
やはり、予後不良で、もう治療の対象にならない状態だった。
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それでも腕節は伸びない。
これでは立てるようにならないし、立てない子馬は哺乳できないし、何日も立てない子馬をミルクで生きながらえさせても立てるようにできる方法はない。
この春、実習に来た学生の一人が、難産で引っ張り出したこのような仔馬を安楽殺するのを観て、
「馬のためでなく、牧場のために診療していることがわかった」と書いて帰った。
わかってないな。
仔馬のためにも助ける方法がないんだよ。
you don't know that you don't know anything.
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相棒には充分あたたかいか、ときには陽射しが暑すぎるらしい。
恐るべし、犬皮の保温力。
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九州の地震の被害にあっておられる方に心よりお見舞い申し上げます。
まだ被害の全貌も明らかになっておらず、余震もまだ続いてるようす。
人の力が及ばぬ災厄が早く治まりますように。
人の力でなんとかできることは人の力が及びますように。