もう20年も前の話。
その朝は、上部組織の指導機関の先生を迎えて、酪農家に搾乳立会と採材に行くところだった。
車中で、私たち地元の獣医師は、オグリキャップの喉嚢真菌症の経過とこれからについて話していた。
それを聞いていた、指導機関の先生は一言、
「たかが馬一頭。」
とおっしゃった。
おそらく、せっかく御自分が指導に来ておられるのに、その移動時間とは言え、別な話に夢中になっているわれわれ地元獣医師の態度が愉快ではなかったのだろう。
私たちは、それでオグリキャップの話をするのを止め、車の中は白けてしまった。
そして、少なくとも私は、その先生に対する敬意が薄れてしまった。
有名馬だとか、何億円の経済価値がある馬だとか、そんなことは別にして、症例について話し合っている獣医師に、「たかが馬一頭」などと言う人は、別な価値感で仕事をしておられるのだろうから、師事するわけにはいかない。
数年後、その先生はわれわれの指導機関を去られた。
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それまでも、それからも、馬一頭を助けるために何度徹夜したことだろう。
診療時間以外でも自分の時間を割いて、成書を読み、文献を探し、考え込んできた。
解剖体で練習し、ドキドキしながら実践してきた。
馬を治す方法を学べるとあれば、USAへも、香港へも、自腹を切ってでも出かけてきた。
私が知らないことを知っている先生や、私ができないことをできる先生には、ヘタな英文でメールを送り指導を仰いできた。
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「たかが馬一頭」?
私は自分がやってきたことに自信を持っているし、こうしてやってこれたことに感謝の念といくばくかの満足を抱いている。
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今日は、異常低温で早朝は寒かった。
ここしばらくの何度かの早朝の時間で、シンポジウムの抄録と、学会の講演要旨をほぼ完成させた。
朝は、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。
次いで、ALD 肢軸異常のスクリュー抜去。
午後は、私は血液検査。
2歳馬の頚椎症の腰痿のX線撮影。
入院厩舎の掃除をして、
2歳馬のEE喉頭蓋エントラップメントの内視鏡手術。
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