Ducharme教授に聞いたこと・・・
Cornell大学はHong-kongにも分校を創っていますが・・・・「Cornellはあちこちに広がろうとしている。Cancerのように。」
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夜の講演会の次の日は、獣医師向けの講習と実習。
講演内容は、予定を変更してEE(口喉蓋包埋)手術のcomplications(併発症)について。
生産地の獣医師のかなりが、Duchrame先生の東京での講演と、前夜の地元での講演を聞いているので、こちらで要望して内容を変えてもらった。
要望されて急遽内容を変更できるところがすごい。
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馬の喉の手術は、手技そのものが難しいというより、complicationsの率が高い。
それも、術前より悪くなることも多く、しかも対処方法がないcomplicationsも多い。
複雑で特殊な形状をした喉を扱わなければならず、そこは大きく切り開くことはできないし、
軟骨と神経と筋肉が、複雑に関係して、呼吸と嚥下を司っている。
というのは安易すぎるし、無責任だ。
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次いで、日本でのTiebackの500例以上の成績を紹介してもらって、Ducharme先生のコメントをもらった。
Ducharme先生に、「年間どれくらいTieback手術をやりますか?」と尋ねたら、
「週に1頭から5頭」という回答だった。
年の頭数は数えてないのかね?
それでも、すごい数なのだろう。
Ducharme先生がやっても、「Tiebackの20-25%はうまく行かない」とのこと。
2回目のTiebackはさらに難しい。
うまく行かなかったからと言って、訴えられるようならとても取り組めるような手術ではない。
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午後は実習。
われわれの喉頭の超音波検査の手技を見てもらう。
Ducharme先生は、CAD(背側披裂輪状筋)を体表から観ることはあきらめていたようなのだが、テクニック次第でできなくはない。
しかし、Ducharme先生は、CAL(外側披裂輪状筋)周辺を含めて、実に正確な知識を持っておられた。驚くほど。
他の点でもそうなのだが、上部気道について、最新の文献も含め、実際の手技も含め、網羅的に正確に知っておられる。
研究者であり、教育者であり、外科医であり、それぞれにパーフェクトで権威なのだ。
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次いで、Tieback後に誤嚥する馬に用いる声帯を膨らませる手技。
輪状気管粘膜から18Gのスパイナル針を刺して、ルアーコック式のシリンジに入れた「物質(ボーンセメント、テフロン、など)」を声帯に注入する。
さらに、立位でのLaserによる声帯切除。
馬の頭を台に乗せる。充分に鎮静する。十二分に局所麻酔薬をかける。嚥下を完全に止める。しかし、局所麻酔薬を嚥下させたり、気管に入れてはいけない。
左の声帯の腹側を切って、喉頭鉗子でテンションをかけながら・・・・披裂軟骨小角突起の声帯突起は避けて・・・・
とやっているうちに高齢の実習馬が倒れてしまった。
実馬を使った実習は中止。
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解剖体で、Tiebackの手技を教えていただく。
実に細かい工夫がされていて感心した。
2012年に香港で教わった方法とかなり変わっている。
現在は、ほとんどのTiebackを立位でやっているとのこと。
輪状軟骨の尾側に糸をかけるのはArthrex社製の金属のボタンを使っている。
糸は、Fiber wire かFiber tapeあるいはTiger tape。
針は特注のテーパーポイント針。三稜針は軟骨を切ってしまいやすい。
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現在は甲状咽頭筋と輪状咽頭筋を分けて、披裂軟骨筋突起を露出させている。
筋突起に器具をかけると引張り出すことができる。
輪状軟骨に針をかけるときも、筋突起に針をかけるときも、食道や食道周囲の筋膜を拾わないことが大事。
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披裂軟骨の関節を開けて、やすりで関節軟骨を削る。
筋突起への糸のかけかたも、とても複雑で、よく考えられ工夫されていた。
テンションは、競走馬と乗馬で変えるそうだ。
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そのあと、披裂軟骨切除。
Ducharme先生は、粘膜を軟骨から剥がさない。
しかし、軟骨切除後、披裂口蓋ヒダを切除部分に縫い付ける。
引張りすぎて引きつらないように注意。
腹側は血が溜まらないように傷を開けておく
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webbing(左右両側の声帯切除をしたあと、腹側に膜が張ったように癒着すること)に治療法がありますか?
と尋ねたら、
「Dixon先生が考案している。」と、方法を教えてくださった。
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もうそのあたりで予定の4時を過ぎてしまった。
とてもハードな日程をこなしているのに、嫌な顔ひとつせず、尋ねたこと以上の回答とコメントをくださる。
すごいものだ。
しかし、colic surgeryはやらないそうだ;笑
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「すばらしい施設だ、器具もすばらしい、スタッフも優秀だ。」と実習会場をほめてくださった。
たぶん私をそこの所長だと勘違いなさっていた;笑
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講習の内容も、実習の内容も、どうしても馬外科医が聴きたいこと、聞きたいことになってしまう。
世界レベルの権威者を招いておいて、馬の喉頭内視鏡検査をしたことがない獣医師に一から教えてもらうということにはならない。
それは自分で勉強して、さらには地元で講習会や実習をすれば良い。
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もっと勉強しなきゃだめだな、と思わされた。
それだけでも大いなる価値がある。
講演や実習に呼んでもらったら、もっと頑張ろうと思った。
韓国や九州行きくらいでへばってちゃだめだな;笑
Ducharme先生はフロリダで行われるAAEPへ向かわれた。
そこで最も注目されるMilne Lecture をされるのだ。