数日前の話。
朝、競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。
15分も遅れてきたので忘れてるのかとあちこち電話した。
どこも役に立つ連絡がつかず、結局、馬が到着してから折り返しの電話があちこちから来る。
午後は獣医師会の会議の予定が入っていたが、1歳馬の疝痛の依頼。
前の日の昼から疝痛だったと言う。
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ひどく痛いわけではなく、間欠的に痛みが出て仰向けにもなる。
PCV41%だが、乳酸値は2.6mmol/lとかなり高い。
体表からの超音波検査で、左腎臓は結腸に邪魔されて確認できず、その結腸には結腸動脈が見え、その周囲は肥厚している。
食べてない割には小腸に内容が多く、腹水もやや増えている。
「もう開腹手術した方が良いです」と言ったら、オーナーに電話して代わって欲しいと言われたので簡潔に説明する。
「腸閉塞で、このままではダメになる可能性が高く、やれば助かるとは限らないが開腹手術した方が良いです」
やってください。ということなので、すぐ準備して始める。
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ほぼ予想したとおり結腸左背側変位だった。
結腸が脾臓と左腎臓の間にはまり込む reno-splenic entrapment のだが、そのときねじれて裏返ることが多い。
今回の症例ではそれで結腸動脈が左の体表から見えたわけだ。
結腸は循環障害を起こして結腸動脈周囲は黄色く浮腫を起こしていて、結腸には点状出血した部分や、わずかに筋層が切れた部分もあった。
黄色い腹水も増えていた。
結腸の損傷が進めば予後が危うくなるし、回復までの時間もかかるし、治療費もさらにかさむことになっただろう。
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自分の馬に治療を受けさせるかどうかは最終的にはオーナーが決めることだ。
何かあったらどこまでの診療をしてもらいたいのか馬を預ける相手に説明しておいた方が良い。
何かあったときに納得できるきちんとした説明を求めるのはオーナーの権利でもある。
そして、納得できる診療を受けさせるのはオーナーの義務でもある。馬は自分では病院へ行けないのだから。
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馬に魅かれて、そして自馬にされた馬は素晴らしい馬で、
ところがその馬は眼の病気を患っていて・・・・
あちこち情報を求めて、私が相談を受けた。
私は、遠慮しないで馬のためにちゃんと眼の検査をできる病院へ連れていってもらうようアドバイスした。
それは、オーナーの権利であると同時に義務ですから、と。
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それから数年のその馬とオーナーの濃密な時間も書かれている。
その馬への想いがあふれていて、胸が熱くなった。
癌が転移し、高齢馬に多い運動器の障害もかかえている愛馬の馬房の前ですごした夏の時間。
暑くて、ふつうには快適なはずはないのだが、その時間が本のタイトルになったのだろう。
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そして、疝痛で別れの決断のときが来る。
それもまたオーナーの辛い義務でもある。
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競走馬の世界はもう少しドライかもしれないが、この本からは人が馬に抱く愛情の強さ大きさを感じさせていただいた。
馬医者にとって忘れてはいけない大切なことだ。
そして、現実問題としては日本の、とくに競馬サークル外の馬医療の現状をあらためて考えさせられた。
これも、日本の馬医者全体の課題でもある。