外傷で3週間ほど馬房内休養している1歳馬。
朝、厩舎へ行ったら疝痛をしていた様子があり、まだ痛い、とのことで来院。
PCV31%、乳酸値1.2mmol/l。心拍40/m。
直腸検査で著変なし、超音波画像診断で著変なし。
外で曳き運動してもらったら、あまり歩きたがらないが、疝痛はなし。
草の上に連れて行ったら、草を食べようとした。
「帰って大丈夫でしょう。」
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ところが帰ってからもずっと寝ている、ということで夕方、再来院。
口粘膜を診たら、白っぽくて、わずかにチアノーゼ。
PCV33%、乳酸値1.5mmol/l。
超音波で右胸腔を観たら、わずかな胸水と、肥厚した腸管が見えた。心拍にあわせて震えている。
「横隔膜ヘルニアだ」
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開腹したら、まちがいない。横隔膜ヘルニアだ。
土曜日で2人しか居ない。
応援の獣医師を呼ぶ。
横隔膜の裂孔を切り広げて、入り込んでいる結腸を引っ張り出した。
その奥で、肋骨が折れた痕を触知した。
肋骨骨折して、折れた肋骨が横隔膜を破り、昨夜のうちに結腸壁の一部が胸腔の陰圧に吸い込まれたのだろう。
幸い、裂孔は縫いやすい部位にあった。
Ethibond(非吸収性編み糸)で連続縫合して閉じた。
胸腔内に吸引チューブを入れて、胸腔に入った空気を抜いておいた。
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入り込んでいた結腸壁は完全壊死。
腹側結腸だから、胸骨曲だ。
結腸動脈は残して、壁だけを部分切除して、細くならないように縦に縫合しようか・・・・と思ったが、それなら結腸を切除した方が確実で、のちのちに問題を残さないだろうと判断した。
それで、壊死部の基部よりで結腸動脈を3重に止血し、結腸を切除し、腹側結腸と背側結腸を吻合した。
途中で応援に来てくれた獣医師に助手をしてもらった。
さすがに私もこんな手術は一人ではできない。
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終わって夜7時前。
しかし、馬が覚醒起立するのに2時間以上かかった。
夜中からの疝痛でへばっていたのだろう。
翌日夕方、帰って行った。