Quantcast
Channel: 馬医者残日録
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1694

膀胱破裂の子馬が心停止した

$
0
0

遠い診療所から、不調の子馬の診療依頼。

生後2週間になるが、きのうから元気がなく、T38.6。

で、畜主はもうこちらへ向かって出てしまった、との連絡。

           ー

昼過ぎに来院したら、母馬から哺乳はしている。

しかし、腹が張っている。

超音波で観たら、腹水がいっぱい。

膀胱破裂か?

しかし、もう2週齢になっていて、膀胱破裂する日齢ではない。

腹水を抜いて、クレアチニン・BUNを測ってみる。

しかし、ルーティンの血液検査業務中で割り込み検査は迅速にはできない。

その間に、留置針を刺して腹水をできるだけ抜く。

腹腔尿症で腹囲膨満した子馬は、腹圧で呼吸しにくくなっており、いきなり麻酔をかけて仰向けにするのは危ない。

腹水のクレアチニンは30を超えていた。

腹腔尿症でまちがいない。

         ー

子馬は倒れてしまっているが、かなり腹水は抜けて、腹圧をさげることはできた。

もう留置針ではポタポタしか抜けない。

大網などが針先を覆ってしまうのだ。(14Gを4本刺していた)

生理食塩液の点滴も始めていた。

膀胱破裂では、高カリウム血症になっていることが多い。

それを補正するためにカリウムが含まれていない輸液剤を使う。

         ー

マスク導入して吸入麻酔を始め、手術台に乗せて、私は手術の準備を始めていた。

手術室からガシャガシャと音がする。と思って覗いたら、

心マッサージをしていた。

(人では最近は「胸骨圧迫」と呼ばれる。しかし、馬は胸が左右に平たいので、肋骨圧迫になる)

心電図モニターはフラット。

聴診器を持ってきて心音を聴くと、わずかに規則正しい音がする。

子馬の口の色はチアノーゼ、貧血、まだらに黄色い。循環してない。

吸入麻酔薬は無しにして、ベンチレーションは続いている。

エピネフリンを静脈注射して・・・・・

心電図は、おかしな波形が出た。

電極の接触が悪い。

微弱とは言え心音があるのだから、まったくのフラットのはずはない。

           ー

まともな波形が出るようになって、子馬の口の粘膜の色は回復した。

心拍が戻ってきたのだ。

早く開腹して腹腔内にある尿を排泄させたい。

そのことで、血清カリウムも下げられる、はず。

ブドウ糖も点滴している。

インシュリンは用意していないが、ブドウ糖とインシュリンは、細胞内へのカリウムの取り込みを促進してくれる。

           ー

傍正中を切開して、腹腔内の尿を排泄させる。

生理食塩液を腹腔へ注いでもらって、また捨てて、さらに生理食塩液を入れる。

膀胱は、一番破裂しやすい背中側で小さく破裂していた。2cmほど。

そうしている間に、また心停止した。

P波もなく、QRSでもない、ノコギリの刃のような形をした大きな波がモニターに出ていた。

口粘膜の色は、また貧血、チアノーゼ、薄い黄色と薄紫のまだら。

それでもまた心拍は復活した。

           ー

「難産が来ます。○○歳で、○○時から。おでこしか触らない。」

しかし、目の前の子馬は死にかけている。

いつまた心停止を起こすかわからない。

覚醒室へ運び出しても輸液を続け、心電図モニターは着けておいた方が良い。

心停止したら、心圧迫をして、救急薬を投与して、さらに血圧維持?復活?させるための輸液剤も考えた方が良い。

(続く)

         ///////////

ようやっとあたたかくなって、夜も外で寝るようになった。

夜明けも早い。

 

 

 

 

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1694

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>