遠い診療所から、不調の子馬の診療依頼。
生後2週間になるが、きのうから元気がなく、T38.6。
で、畜主はもうこちらへ向かって出てしまった、との連絡。
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昼過ぎに来院したら、母馬から哺乳はしている。
しかし、腹が張っている。
超音波で観たら、腹水がいっぱい。
膀胱破裂か?
しかし、もう2週齢になっていて、膀胱破裂する日齢ではない。
腹水を抜いて、クレアチニン・BUNを測ってみる。
しかし、ルーティンの血液検査業務中で割り込み検査は迅速にはできない。
その間に、留置針を刺して腹水をできるだけ抜く。
腹腔尿症で腹囲膨満した子馬は、腹圧で呼吸しにくくなっており、いきなり麻酔をかけて仰向けにするのは危ない。
腹水のクレアチニンは30を超えていた。
腹腔尿症でまちがいない。
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子馬は倒れてしまっているが、かなり腹水は抜けて、腹圧をさげることはできた。
もう留置針ではポタポタしか抜けない。
大網などが針先を覆ってしまうのだ。(14Gを4本刺していた)
生理食塩液の点滴も始めていた。
膀胱破裂では、高カリウム血症になっていることが多い。
それを補正するためにカリウムが含まれていない輸液剤を使う。
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マスク導入して吸入麻酔を始め、手術台に乗せて、私は手術の準備を始めていた。
手術室からガシャガシャと音がする。と思って覗いたら、
心マッサージをしていた。
(人では最近は「胸骨圧迫」と呼ばれる。しかし、馬は胸が左右に平たいので、肋骨圧迫になる)
心電図モニターはフラット。
聴診器を持ってきて心音を聴くと、わずかに規則正しい音がする。
子馬の口の色はチアノーゼ、貧血、まだらに黄色い。循環してない。
吸入麻酔薬は無しにして、ベンチレーションは続いている。
エピネフリンを静脈注射して・・・・・
心電図は、おかしな波形が出た。
電極の接触が悪い。
微弱とは言え心音があるのだから、まったくのフラットのはずはない。
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まともな波形が出るようになって、子馬の口の粘膜の色は回復した。
心拍が戻ってきたのだ。
早く開腹して腹腔内にある尿を排泄させたい。
そのことで、血清カリウムも下げられる、はず。
ブドウ糖も点滴している。
インシュリンは用意していないが、ブドウ糖とインシュリンは、細胞内へのカリウムの取り込みを促進してくれる。
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傍正中を切開して、腹腔内の尿を排泄させる。
生理食塩液を腹腔へ注いでもらって、また捨てて、さらに生理食塩液を入れる。
膀胱は、一番破裂しやすい背中側で小さく破裂していた。2cmほど。
そうしている間に、また心停止した。
P波もなく、QRSでもない、ノコギリの刃のような形をした大きな波がモニターに出ていた。
口粘膜の色は、また貧血、チアノーゼ、薄い黄色と薄紫のまだら。
それでもまた心拍は復活した。
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「難産が来ます。○○歳で、○○時から。おでこしか触らない。」
しかし、目の前の子馬は死にかけている。
いつまた心停止を起こすかわからない。
覚醒室へ運び出しても輸液を続け、心電図モニターは着けておいた方が良い。
心停止したら、心圧迫をして、救急薬を投与して、さらに血圧維持?復活?させるための輸液剤も考えた方が良い。
(続く)
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ようやっとあたたかくなって、夜も外で寝るようになった。
夜明けも早い。