Septemberの日曜日
認定馬臨床獣医師
今年、ウマ科学会で認定馬臨床獣医師の試験が行われる。
すでにあちこちお知らせが出ている。
何だそれは?!という疑問もあるだろうし、
すでに馬臨床獣医師を自認している獣医師には、何でいまさら認定される必要がある?とか、
どうして試験なんぞ受けなければいけなんだ?という思われる方もいるかもしれない。
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しかし、われわれは獣医師として診療に当たっている。
獣医師であるということで、信頼も得ている。権限も与えられている。
ところが、日本の獣医学教育と獣医師国家試験は馬の臨床についてみると残念ながらとてもお粗末だ。
ほとんどの獣医科学生は馬に触れることもなく卒業しているし、
獣医師国家試験には馬の臨床についての問題はほとんど出題されない。
だから、日本では獣医師であるというだけでは馬の臨床ができるということにはならない。
馬の診療も行う資格はあたえられているのだけれど、中身が伴っていない。
それでは馬の臨床については資格制度がないのと同じだ。
ー
馬の臨床医として活動する意欲があって、
馬の臨床について勉強していて、
最低限の知識と技術と経験を身につけている、ということを認定してもらうということはそういうことだと思う。
現在馬の臨床医として診療に当たっている獣医師を落とすための試験ではないはずだ。
先々は、こういうことは知っておいて下さいよ、という指標にもなるはずだ。
そして、馬獣医師としてスタートした若い先生たちには努力目標にもなるだろう。
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多くの先生方に認定試験を受けていただきたいと思う。
試験問題や、認定方法や、更新方法など、まだいろいろ試行錯誤があるだろうが、日本の馬臨床獣医師が寄り集って、好い認定制度にしていけば良いのだと思う。
落ちたらどうしようなどと心配する必要はない。
オレが受からない馬臨床認定試験なんて試験の方がおかしいんだ、試験問題や試験方法を変えろ!と胸を張っていればいい。
そして、当たり前に馬の臨床をやっている獣医師は認定を受けられる試験になるはずだ。
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研修センターの壁になんか付いてる、と思ったら・・・・
北海道では珍しいコウモリだ。
もっと暗くて安全なねぐらを探せば良かったのに。
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この研修センターも取り壊される。
6部屋の新しい宿泊施設が建築される予定だ。
繁殖雌馬の第一趾骨骨折 背底割れ
16歳の繁殖雌馬が第一趾骨を骨折し、準緊急手術することになった。
もう8日経っている。
もともと対側肢が慢性フレグモーネがある馬で、肢が腫れて痛くなってもフレグモーネだと思われてしまったらしい。
キャストを巻いて、翌日来院したが・・・
それでも痛みは減ってきているのだろう。
見事な前後割れ(背底割れ)。
第一趾骨全長におよんでいる。
遠位と近位の関節面をつなぐ骨体がない第一趾骨(指骨)骨折はスクリュー固定の対象にはならない。
頭に貫通ピンキャストをやらなければならないことも浮かんでいたが、これならなんとかスクリュー固定とキャストで対応出来そうだ。
第一趾骨(指骨)の骨折はきれいな骨折線で割れているとは限らない。
ある箇所から斜めに割れたり、X線画像に写らない亀裂が走っていたりする。
で、こういうスクリュー固定の仕方にした。
第一趾骨(指骨)の中央のくびれた部分には2cm以内の間隔ではスクリューを入れない方が良いとされている。
ボッキリ折れてしまうことがあるのだそうだ。
近位の外側のスクリューはなめたので5.5mm皮質骨スクリューに差し替えてある。
1週間以上経っているわりには骨折線を圧迫できた。
麻酔覚醒起立には吊起帯を使った。
後肢にキャストをした馬であること。
15歳を超えていること。
慢性フレグモーネで運動量が少ない馬であったこと。
気性が悪く、興奮しやすい馬であること。
と、4つリスク要因を抱えた馬であった。
懸念通りに、起立の様子は良いものではなく、
立ち上がってから尻っぱねしようとした。
いい歳して、まったく!!
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放っておいても朽ちるだけだ。
玉切りして運び出す。
1つ20kg近くあるかな?
心肺能力と、腰と、脚力のトレーニングになる。
体を鍛えておけよ。
プロの仕事は毎日きついくらい続くんだ。
10年目研修 牛の骨折プレート固定
今年も、子牛の骨折プレート固定を教えに行ってきた。
まずはプラスチック・ボーンでの体験から。
そして、例によって講義もそこそこに、実践的練習に集中した。
今回は受講者5名だったので、充実した実習になる・・・・・はずだったのだが・・・・・
どうだっただろう??
Do you remember
the night of September
Love was changing the minds of pretenders
While chasing the clouds away
とは、行かなかったのかもしれない。
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Earth, Wind & Fire - September (Official Music Video)
compensatory lameness 代償性跛行
8月9日から左後ろを跛行している相棒。
突然だったし、その後は少しずつ良くなりつつあるので、股関節をひねったのだと思うが、
もともと股関節形成不全があったかもしれない。
子犬の頃からお尻をふりふり歩いている。
明らかに左後ろの跛行なのだが、歩いていると点頭運動もある。
馬の速歩だと、左後ろの跛行だと見かけ上の左前の跛行が起こることが多い。
それはcompensatory lameness 代償性跛行と呼ばれる。
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左後ろが痛いと、左後ろを免重するために同時に着地する右前の荷重が増える。
それで、左前の跛行に見える点頭運動が起こるのだ。
しかし、うちの相棒は・・・・・
散歩で歩いているとき、側対歩。
それで、左後ろをかばうために左前の荷重を増やすために右前の跛行に見える。
できるだけ走らせないようにしているが、走ると、もう跛行はわからないくらいになった。
跛行診断は難しいね。
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これ食べられるだろうか?
9月の終わり
暑さが残っていたのに、突然、寒さを感じるようになった。
日は着実に短くなっている。
夜明けは遅くなり、日暮れは早くなった。
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教科書の執筆も終盤というのに燃え尽きてしまった。
締め切り延ばしてくれればもうちょっと頑張りますけど・・・・笑
9月も疝痛・開腹馬がバラバラとやってきた。
ゆうべも結腸捻転。
colopexyしても手術は2時間かからないで終わる。
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2日間技術講習を受けてきた。
長時間のきつい講習だった。
学科試験と実技試験がある。
街の中にいる怪物。
野にいる困り者。
ここらで見かけるのははじめてだ。
繁殖しているらしい。
もう完全駆除するのは無理だろう。
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「青鹿毛」さん
コメントをいただいたようなのに、スパム削除するときに消してしまったようです。
ワンコの股関節障害についてですが、
私は、こちらのブログを注目してみています。
うちの相棒もX線撮影してみないといけないかと思いながら・・・・まだです。
頸椎骨髄炎の子牛への外科的介入
Veterinary Surgery誌の最新号に素晴らしい症例報告が載っていた。
Surgical intervention for vertebral osteotomyelitis in a calf
子牛の脊髄骨髄炎への外科的介入
Iowa州立大学からの報告。
やるじゃないかIowa州立大学!
著者はほとんど女性獣医師だ。
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抄録
目的:頸椎骨髄炎で歩行不能の子牛の外科的治療と結果を報告すること。
研究のデザイン:症例報告。
検体の数:3か月間四肢不全麻痺の3.5か月齢の雌の交雑種子牛。
方法:CTガイドにより骨生検を行い、第四頸椎体に細菌性骨融解病変と、二次的な病理学的圧迫骨折があり、臨床的には全四肢の不全麻痺がその子牛で診断された。
第四頸椎内の病変からは培養によって Trueperella pyogenes が分離された。
結果:内科的治療には反応に乏しかったので、第四頸椎内の病変の外科的デブリドが必要であり、それに伴って頸椎脊柱の安定化が必要であった。
3部の手技が行われた。それらは(1)第四頸椎のデブリド、(2)第三から第五頸椎までの両側腹側の固定、(3)アンピシリンを含浸させた石膏ビーズの注入、であった。
術後の身体的リハビリテーションを行い、その子牛は完全な歩行機能を取り戻した。
1か月の検査では、その子牛は軽度の固有受容体運動失調を伴う歩様であったが、インプラントの崩壊の徴候はなかった。
1年後の検査では、その子牛は208kgになり、残っていた神経学的問題もない完全な歩様であった。
結論:外科的介入と抗生物質含浸インプラントの使用は今回報告する脊椎骨髄炎の長期の内科的治療に代わりうることが示された。
臨床的重要性:この症例は、外科的介入が生産動物の歴史的な致命的状態の予後を改善するための可能性がある処置であることを示した。
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この子牛の第四頸椎の骨融解病変の細胞診。
変性した好中球内に多量の細胞内細菌が見える。
新生細胞は観察されない。
頸椎の側方X線画像。第四頸椎の長さは、中程度に短くなっており、それは大きな中央部の骨融解(矢印)による。
第四頸椎の腹側縁は連続性がなく、病理学的骨折を示している。
頸椎の矢状断CT像。
第四頸椎の融解は第三第四椎間板腔を通って、第三頸椎の尾側骨端へ伸びている(矢印)。
術後1か月での頸椎のX線画像。
腹側のSOPプレートの位置、スクリュー、椎体は以前と変っていない。
骨融解の進行の所見もない。
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本文中に、畜主はこの子牛への感情的な思い入れによって安楽殺に reluctant 抵抗した(ためらった or 気が進まなかった )、とある。
コンパニオンアニマルではないだろうが、牛をたいせつにする飼い主さんだったのだろうか。
USAでは、日本より子牛の価格は安いはずだ。
大学病院に入院させ、CTを撮り、プレートを2枚入れる手術をしたら、治療費はこの子牛の価格を飛び越しただろうと思う。
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SOPプレートというのは聞き慣れないが使われたのは、3.5mm String of Pearls プレート、だそうだ。
新しいロッキングプレートだ。
真珠の首飾りプレート。たしかに。
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Iowa州立大は、馬の手術頭数はうちより少ないだろうと思う。
しかし、こういう症例の診断や治療はうちではできそうにない。
CTがないだけではない。
まだまだ知識や技術や経験や、周囲の環境や、それから何だろう?足りないもの、及ばないものは?
まだまだレベルアップが必要だ。
Iowa州立大学のチームに敬意を送りたい。
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ラグビーには大して興味はなかったのだが、ラグビーワールドカップを見始めたらその迫力に感じるものがある。
アイルランドがスコットランドを圧倒した試合を観た。
フォワードの圧力がすごくて、こんな奴らと第二戦で当たるなら、怪我をしないことだけを優先させた方が良いのではないか、と思っていた。
日本-アイルランド戦は、前半は引き離されなくて良かった。同点にもできなかったが・・・・
と思っていたら!
後半は日本がアイルランドを圧倒した。
失礼した。
選手たちは本気だったんだな。
それだけの努力と準備を4年間やってきたんだな。
成せば為る。
感動した!!
馬の整形外科内固定の術創感染:155症例(2008-2016)
SSI Surgical Site Infection は馬の骨折内固定が失敗する大きな原因のひとつ。
内固定手術は、技術も周囲の環境も変っていくので、SSIがどれくらい起きていて、どのような手術で多いか、過去とは変ってきているかもしれない。
Veterinary Surgery にペンシルヴァニア大学New Bolton Center からの報告が載っている。
そう、あのRichardson教授が指導した学術報告だ。
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Surgical site infection associated with equine orthopedic internal fixation: 155 cases (2008-2016)
馬の整形外科内固定に関連した術創感染:155症例(2008-2016)
抄録
目的:内固定後の術創感染の発生を確定し、術創感染と非生存の危険因子を同定すること。
研究のデザイン:懐古的調査。
動物:1病院で2008年から2016年に長骨骨折あるいは関節固定を内固定で治療した馬155頭。
方法:症状、診断、外科治療、外科医、手術時間、抗生物質治療、術創感染の始まり、細菌の同定、補助的治療を記録した。
周術期の多様性を分析して予後に関係する因子を同定した。
結果:術創感染は155頭のうち22頭(14.2%)で報告され、以前の報告より低かった(P=.003)。
球節の関節固定、あるいは尺骨骨折の馬は、より術創感染を起こしやすかった。
局所の予防的な抗生物質投与は術創感染のリスクの増加と関係していた。
術創感染があった馬は、なかった馬より12倍生存して退院する率が低かった(P<.0001)。
球節あるいは腕節を関節固定した馬、あるいは橈骨/上腕骨/大腿骨骨折の馬は生存率が低かった。
開放骨折、切開しての整復、そして内固定、あるいは手術時間と術創感染の間の関連は認められなかった。
結論:本調査での術創感染の発生はかつての報告よりも低かった。
球節あるいは腕節の関節固定、または橈骨/上腕骨/大腿骨骨折の馬は術創感染のリスクが増加し、そして、あるいは生存して退院する率が低い傾向にあった。
術創感染に対する抗生物質局所投与の防御効果は確認することができなかった。
臨床的関連:馬の内固定症例の予後への術創感染のインパクトは今も重大である。
術創感染のリスクが高い症例を特定することが、外科手技、術後治療、そして術創感染が疑われたときの早期の介入に影響をあたえるべきである。
局所の抗生物質治療に関するさらなる調査が必要である。
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師匠Richardsonは、馬の骨折内固定が失敗に終わるパターンとして、
感染、
内固定の崩壊、
不運、
をあげておられた。
経験から出た金言だと思う。
つまり、馬の骨折内固定を成功させようとしたら、感染に気をつけ、崩壊しないような内固定を行い、不運につながる要素を限りなく排除していけばよい。
私のこの10年の馬の骨折内固定の症例では、やはり感染はひとつの大きな失敗要因になっている。
特に、子馬の中手骨、中足骨をdouble plates 固定すると、術後の傷の治りと感染が問題になる。
double plates しないでキャストを併用するとか、
minimally invasive technique で手術するとか、
工夫が必要だろうと考えている。
ー
しかし、155頭。すごい数だ。
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日暮れが早くなってきた。
そんなにはしゃぐな、脚も痛いんだし。
馬臨床高度化研修2019
10月に入って、世間は消費税10%で騒がしい。
NOSAIは点数表や薬価が改訂されるまで2%分は負担するのだそうだ。
JR北海道は、消費税増税以上の値上げをした。それって便乗値上げでしょ。
ー
この3日間、他の地域のNOSAIから馬臨床高度化研修の獣医師が4名見えている。
初日は2歳競走馬の喉頭片麻痺のTieback&Cordectomy 喉頭形成・声帯切除手術を観ていただいて、
馬の診療をするなら全身麻酔できるようにしておかないと、外傷縫合や臍ヘルニアにも対応できない。
プロポフォールを用いたTIVA 全静脈麻酔。
プロポの呼吸抑制が強く出て、気管挿管とデマンドバルブが必要になるところも観ていただけた。
覚醒が良好なところも。
下顎がずれてしまっている。
餌は食べられない。
水も飲んでいないのだろう。便もコロコロだった。
乳を飲んでいる子馬とちがって、草を食べなければならない育成馬や成馬は下顎が完全に割れて食べられなくなると痩せ衰えてしまう。
骨癒合が早ければ良いが、ずれてグラグラしているようだとなかなか骨癒合せず、口の中からも感染が進んで化膿する。
だから、固定して、骨折線をできるだけ閉じて感染の重篤化を抑え、骨癒合を進めて早く食べられるようにしてやった方が良い。
整復してDCPを当てて固定し、さらに骨折線の両側の臼歯をワイヤーで締結した。
牛や重種馬では、このような下顎骨折はまず起こらないのかもしれないが、プレート固定の適応が肢の骨折だけではないことを観ていただけた。
そのあいだに、肢軸異常の左右球節にscrewを入れていた当歳馬からのscrew抜去。
サラブレッドの当歳馬でも立位で鎮静と局所麻酔でscrew抜去できることを・・・・併行していたので観ていただく暇はなかった;笑
馬の生産地では二次診療のニーズが充分あり、多様な事故に対応していることを観ていただけたと思う。
洗浄・消毒、切開・縫合、麻酔・覚醒起立、といったわれわれにはルーティンワークも、牛地帯とはかなりやり方が異なっていると思う。
その差を観て、地元で生かせることは採用して普及させていただければ、このような研修も意義があるのかな、と思う。
ー
うちの会社や地元の馬獣医師は観ておかなくて良いのか?;笑
馬臨床高度化研修2019 2日目
馬臨床高度化研修の2日目。
午前中は1歳馬の大腿骨骨嚢胞のscrew固定。
嫌ほどX線撮影しながら、狙って狙って骨嚢胞を突き刺すようにscrewを入れる手技。
われわれには現像にいかないでその場でX線画像が見られるDRや、ブレのないドリリングができる整形外科用ドリルが必需品であることをわかっていただけたと思う。
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そのあと、牛の麻酔の講義。
牛の麻酔も、キシラジンだけで何でもできます、肢しばっておけば動いても大丈夫です、じゃなくて、
気管挿管、
TIVA 全静脈麻酔、
を使えるようにしていけば、外科手術も安心して今よりもっと繊細で高度な手技を取り入れていけるのではないだろうか。
キシラジンでの”麻酔”でも、嘔吐と誤嚥対策に気管挿管の必要性の声も聞くことができた。
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午後は講義をしてから、解剖体を用いて子牛の骨折プレート固定練習。
脛骨、大腿骨、上腕骨のプレート固定を練習していただいた。
まず理論を勉強し、器具の使い方を覚え、そして手技や感触を知ることから始める。
そして、折った解剖体は見事に?笑 プレート固定できた。
これならもう少し練習すればできそうだ、と実感することも大事。
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子牛の骨幹端は骨が柔らかいのでキャンセラススクリュー(6.5mm海綿骨スクリュー)を使うのがいいですよ、
と実習・講習では言っている。
しかし、6.5mm海綿骨スクリューはねじ山が大きいので、プレートの孔に当たりやすい。
そして、DCPのスクリューホールは・・・・・・
こういう形状をしているが、
一番端のスクリューホールだけはこういう形状をしている。
知らなかった・・・・・
これは実習中にG藤先生が発見し教えてくれた。
おそらく、端の穴は成長板や関節の近くにスクリューを入れることになりやすいので、スクリューをプレートに垂直ではなく角度をつけて挿入しやすいように形状を変えているのだ。
DCPを設計した人の知恵と工夫だね~
そのことが端の穴には6.5mm海綿骨スクリューを入れやすいようにしてくれている。
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人に教えること、人と一緒に練習すること、人のやるのをよく観ていることは新しい気づきの機会を得ることになる。
勉強になりました。
馬臨床高度化研修20019 3日目
馬臨床高度化研修の3日目。
朝、1歳馬の下顎の外傷の依頼。
研修の先生たちも呼んで傷の除毛、洗浄、ドレイン留置、縫合を観てもらう。
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ミーティング後の朝の時間。
牛の骨折症例についての講義。
午前中は、当歳馬の”カケス”の矯正手術。
臼歯にワイヤーをかけて、
上顎切歯へ縛り付けることで、上顎の成長を抑制する。
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その後、急患で当歳馬の疝痛。
強い疝痛が3時間続いている。
血液検査所見は悪くはない、が、超音波で厚くなり始めている小腸が見えた。
これ以上待っていると全身状態も腸管の状態も悪くなるだろう。
開腹したら空腸の捻転だった。
一部はチアノーゼがあったが、解けたら回復した。
小腸は全体に浮腫性の肥厚があったが、それも回復するだろう。
馬の腸閉塞を開腹手術で助けるなら、診断も遅れてはならず、決断も早くしなければならない。
そのことを研修の先生たちにも観ていただけたと思う。
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午後は時間を遅らせて、予定の関節鏡手術。
3歳の現役競走馬で、1年あまり前に左の腕節を手術している。
今回は右が折れた。
しかし、左も変形性関節症が進行しているので関節鏡を入れてcleaning 手術を行った。
変形性関節症は重度で、とても綺麗にはならない。
骨関節炎は関節腔の外まで波及している。
研修の先生たちは関節鏡手術を観るのは初めてだろう。
牛の関節疾患を理解する上でも参考になれば喜ばしい。
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これにて3日間の馬臨床高度化研修は終了。
あとは個別に馬の診療についての質問にお答えして解散。
また地元へ戻って行かれた。
日常の診療に生かすことができる何かが得られたなら嬉しい。
研修センター44年の歴史に幕
町の研修センターは取り壊しが始まっている。
昭和51年(1976)の開所なので、築44年目になるわけだ。
途中、町の判断で閉鎖されていた期間が数年ある。
以降はNOSAIが管理委託されて、補修とリフォームをしながら使ってきた。
木造モルタル2階建て、一部セラミック仕様、という建物だ。
もともと立派な材を使って頑丈に建てられていたわけではないようで、床もきしんでいた。
雨漏りもあったし、ついにはモルタル壁が剥がれて落ちるようになっていた。
建築物としては限界だった。
去年の9月の地震は危なかったのだろうと思う。
震度5弱だったから耐えてくれたが、もう少し震源が近かったら・・・・・
ー
地元の畜産振興にはたしてきた役割は大きいと思う。
この地域で働いている産業動物獣医師の半数以上は、この畜産研修センターに宿泊して学生実習を経験している。
JRAをはじめ全国で馬の獣医師になっている学生実習経験者も数多い。
毎年30名前後の獣医科学生が宿泊し、この地域を訪れていった。
そのことだけでも地域振興になっただろうと思う。
講義室もあったので、獣医師や農業者が対象の講習会も数多く行われた。
ー
今は新卒獣医師の確保も難しくなっているので、NOSAIや開業獣医師も実習生を積極的に受け入れている。
新卒を採用しても離職率もとても高いので、いきなり就職するのではなく、実習に来て実情を知った上で就職してもらいたいのだ。
実習生、研修生を受け入れるには宿泊場所があるかどうかが問題になる。
旅館に泊まっても、朝夕送り迎えをするのはたいへんだし、夜中の急患で出入りするのはヤメテクレと言われる。
夜中の急患を観ないんじゃあ、うちで実習・研修する意義は半減する;笑
実習生や研修生を持続的に受け入れていくなら宿泊施設はどうしても必要だ。
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獣医科大学へ入って5年目だった夏、馬の診療も観たいので実習に行きたいと一条教授に相談したら、
「ああ、じゃああそこへ行けばいいよ。電話しといたげるから。」
と頼んでくれた。
この研修センターがなければ、私はこの地域に就職しなかったかもしれない。
ぶっ壊されていくのを観ていると、感慨深いものがある。
私が学生実習に来たころ
私が獣医学科に入学したのは、獣医学教育が「修士積み上げ」と呼ばれる6年生になって2年目だった。
入学したとき(昭和54年、1979)には、
「君たちが4年生になるまでには、6年一貫教育になり、大学院への入学試験を受けなくてもよくなるから」
と言われたが、結局それは進まず、大学院入学試験を受けねばならず、授業料も値上げされた。
それでも私立大の授業料よりはるかに安かった。
私立大から国公立の大学院を受ける学生が多かったらどうするつもりだったんだろう?
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大学院の修士課程の学生として過ごしていたが、もう山岳部も引退し、馬にも乗らず、の生活だった。
大学院も授業は多くはなかった。
まだ、6年制教育の環境は整っていなかったのだろう。
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大学の2年生から馬に乗っていた私は、馬の臨床に興味を持ち、馬産地の臨床を観たいと思った。
それで先生に頼んで三石家畜診療センターを紹介してもらい、学生実習にやってきた。
昭和58(1983)年の夏だった。
1週間滞在したのだったと思う。
その頃、町畜産研修センターは、管理人さんが居て、頼めば3食食べさせてもらえた。
思えば、診療センターも畜産研修センターもまだ開所8年目で、新しく快適だったのだろう。
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朝、夕は、往診随行させてもらった。
獣医さんの昔話や、地域の様子などを聞きながら、なじみのない馬産地の牧場を回るのは楽しかった。
ときどき獣医学的なことを質問されたが、なんとか答えることができ、
「君はよく勉強していて、優秀だね」と褒めてもらったのを覚えている。
例えば、「好酸球が増える病気は何だ?」という質問だったりした。
「え~っと、、、寄生虫疾患とアレルギー疾患・・・」などと答えることができた。
臨床の教室に居て、患畜の診療に参加したり、先輩の話を聞いたり、教科書で調べながら話し合ったりすることが多かったので、臨床の刺激は受けていたからだろうと思う。
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診療センターの獣医師たちの知識が豊富なことや、きちんと診断して最適な治療を選択しようとする姿勢には学生の見ながら感心した。
検査室があり、血液検査も細菌検査も行われていたし、
手術室があり、手術台もあり、吸入麻酔での手術も行われていた。
どちらも今の1/10にも満たない数だったのだけれど・・・
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学生実習は、ほかの大学から来ていた別の学生と一緒だった。
そいつは、はっきり日高に就職したい、と言っていて、私より実習期間も長かった。
私も、就職先を考えなければいけない時期だったが、どうしようか決めてはいなかった。
大動物臨床をやるのか、酪農地帯に就職するのか、馬の獣医師を目指すのか・・・・
まだ、自分の一生のこととか、働くということとか、しっかり考えられない若さだけで過ごしていた。
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それから36年経って、施設の取り壊しを見るようになるとは・・・
その前に大型犬と住んでいるとは、想像もしなかった;笑
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日曜日、
橈骨骨折をdouble LCP固定で治した当歳馬のLCP抜去。
手術から、3ヶ月あまり。
まだプレートは骨に埋まってはおらず、それほどたいへんではなかった。
続いて、夜間放牧中に頭頂部を何かにぶつけた当歳馬の外傷縫合。
その間に、骨盤骨折した繁殖雌馬の剖検。
午後は、
当歳馬の骨柩症。
はっきりした腐骨はわからなかった。
その後、ひどく痩せてしまった高齢の繁殖雌馬の検査。
私が学生実習に来たころ 2
大学院修士の1年目、私は乳牛の第四胃変位の胃内容のVFA組成を調べる、というテーマを与えられていた。
大学院に入って、一条教授には、修士論文の研究には馬をテーマにしたい、とお願いしていたのだが、
「特にこれをやりたいという具体的なテーマはないんだろ?」と言われて、
この中から選びなさい、と私たちの代に挙げられた研究テーマは、
子牛のB1欠乏 羊を使った発症実験とB1測定
犬のパルボウィルス感染症 感染実験
パルボウィルス感染症の電子顕微鏡検査 感染実験
乳牛の第四胃変位 ガスクロマトグラフィーを使った胃内容の分析により発症要因を調べる
というテーマだった。
大動物臨床獣医師になろうと思っていた私は、一番大動物臨床に役立ちそうな第四胃変位の研究を選んだ。
帯広の屠場へ行って、屠殺された牛の第一胃と第四胃の内容をもらってきてガスクロで測定した。
十勝のNOSAIで第四胃変位の手術があると立ち会って第一胃と第四胃の内容をもらってきてガスクロで測定した。
帯広近郊の酪農場を回って、サイレージをもらってきて発酵状態を調べ、サイレージの変廃による第四胃変位の発症の季節変動との関係を調べようとした。
この研究は、うまく行かなかった。
屠場で集められるのは、肥育されて出荷された牛で、そもそも第四胃変位になる乳牛とは食べているものが違う。
比べても仕方がない。
第四胃変位になってしまった牛の胃内容は、変位したことにより異常な閉塞と分泌が起きており、発症する前の状態をどれだけ反映しているかは疑問だ。
酪農場のサイレージの変廃と第四胃変位発生の季節変動をみようとするなら、それだけを本格的にやらなければいけないようなヴォリュームの研究で、pHや乳酸発酵の状態だけ調べても仕方がない。
しかし、NOSAIの診療所をあちこち回って手術に立会い、屠場の仕事の様子を何度も観て、そして昼間の酪農場にサイレージを分けてもらいに回ったのは良い思い出だ。
-
が、次の早春、一条教授に、
「hig君、君、研究テーマを替えて子馬の白筋症をやってくれ。ついては、この春、日高へ採材に行ってくれ。」
と言われた。
第四胃変位の研究でうまく成果がでそうにないことに気づいていた私は嬉しかった。
しかし、まだセレニウムの測定も軌道に乗っていない。
まあ、まだ大学院生の身、深く考えもしないで、馬を研究テーマとして扱えることに喜んで、日高に採材に行くことになったのだった。
(長くなったので続く)
////////////////
週明けの月曜日。
朝、2歳競走馬の第一趾骨骨折。
screw2本で内固定した。
その覚醒を待っている間、
あっちでは1歳馬の飛節の細菌性関節炎の関節洗浄。
午後、膝蓋骨が割れている当歳馬のX線検査。
そのあと、披裂軟骨と気管粘膜に腫瘍ができて呼吸困難になっている繁殖雌馬の手術。
そのあと、移動したばかりの1歳馬の疝痛。
すでに5時間ほど疝痛が続いているので開腹した方がいい。
やれやれ、とっても忙しかった。
私が学生実習に来た頃 3
白筋症の子馬の採材は2週間ほどの予定だったが、結局1か月半ほど滞在することになった。
その間、朝は往診随行させてもらい、昼間は診療センターの診療を見学し、夜はセレニウムの測定を教えてもらった。
夜12時に実験を終わって、早朝4時から往診随行したこともあった。
若かったんだね~
ー
採材はうまくいった。
教授には「子馬だけでいいよ」と言われていたのだが、母馬や同居馬も採血させてもらった。
結局は、それが成績を出すことにつながった。
子馬は、治療としてセレニウムをすでに投与されていることが多く、しかも発症した子馬も発症していない子馬ものきなみ低いので有意差がでなかった。
低レベルの中の比較で差が出たのは、非発症牧場と発症馬の母馬だった。
ー
一番忙しい時期の馬産地の診療を見れたのも面白かった。
今から思えば、いい加減な時代で(40年近く前だからね)、獣医さんに代わって往診車を運転したり、
注射したり、
人手がない検査室で、「僕、検査やりましょうか?」と血液生化学検査をしたこともあった。
獣医師免許はなかったが、もう大学院生だと周りが見てくれていたのかもしれない。
「君、大学から来たんならクマも麻酔できるか?」と子熊がはいった檻のところへ連れて行かれ、
「鎮静剤うっといてくれ」と頼まれたこともあった。
子熊でも大型犬くらいある。大人しく注射なんかできませんから・・・・・
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車で日高中を走り回り、何度か検体を運ぶために帯広と往復し、ガソリン代には苦労した。
その頃には、馬の臨床獣医師になろう、と決めていた。
働くなら生産地だ。と思っていた。
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たしかアフリカの研究者でアフリカに子供を連れて行った人の話を読んだことがある。
長男のときは心配で、あまり部族の村に連れて行ったりしないでホテル滞在だったのだそうだ。
大きくなった長男は、アフリカは不潔だと言って今でも嫌っているそうだ。
次男の時は、親も慣れていたのでどこへでも連れて行った。
次男はハエにたかられながら現地の子供たちとも遊び、今でもアフリカが大好きだとのこと。
近頃の実習に来る学生を観ていて思うが、こわごわ数日だけ覗くように来て何がわかるんだろうと思う。
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一日雨でした。
牛の臼歯根部感染;診断、外科的抜去、予後
馬は歯の手入れが必要だ、ということが普及し、定期的な整歯や、噛み出しをする馬の歯科治療が行われるようになっている。
しかし、牛については・・・・感心すらもたれていないのが現状だろう。
Veterinary Surgeryに牛の歯科治療についての報告が載っていたので紹介したい。
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Cheek teeth apical infection in cattle : Diagnosis, surgical extraction, and prognosis
牛の臼歯根部の感染:診断、外科的抜去、そして予後
カナダ、ケベック州のモントリオール大学からの報告だ。
彼らは”母国語”はフランス語なんだよな・・・・まあ、英語も何不自由なく使えるのか・・・・・
要約
目的:根部が感染した臼歯の外科的抜去を行った牛の、臨床的所見、治療、結果について報告すること。
研究のデザイン:少数例症例集。
動物:9頭の成牛。
方法:2005年から2017年に外科的に臼歯を抜去して治療した、臼歯の根部感染と診断された牛の診療記録を調査した。
臨床的検査、補助的検査、外科的手技、そして予後をデータとして集めた。
結果:主訴は、下顎の腫れ、食欲低下、そして乳量減少であった。
全体では、7本の下顎臼歯と3本の上顎臼歯が抜去された。
左の歯列が侵されることが多く、7本の臼歯と3本の前臼歯が抜去されていた(n=臼歯7本)。
2頭は外から見てわかる病変はなかった。
X線画像では、全ての損傷歯の根部を取り囲む透過域が認められた。
下顎臼歯は頬切開による歯槽骨プレートの除去、あるいは打ち出しによって抜歯された。
上顎臼歯は、上顎洞フラップをしての打ち出しにより抜歯された。
最もよく分離された細菌は嫌気性菌(6/11)とTruperella pyogenes (3/11)であった。
最も多かった併発症は、歯をそのまま摘出できなかったことと(n=4頭の牛)と術創感染(n=5)であった。
全ての牛は治療後牛群に戻された。
結論:臼歯の外科的抜去が9頭の牛で行われた。術後も病的状態が続くことが多く、動物の生産性についての長期間の結果は得られていない。
臨床的重要性:臼歯の外科的抜去は牛の臼歯根部感染において成功しうる治療である。
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本文中に載っているのはこんな画像。
13年間で9頭だから、よくある症例とは言えないだろう。
しかし、必要なら牛でも抜歯するということだ。
私たちに必要を診断できるか?必要を感じて処置する技術があるか?
たいへんな思いをして1頭を治す気持ちがない?それは問題外だ。
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大動物臨床獣医師をめざした若者たちの夢のあと。
研修センターは順調に破壊されつつある。
繁殖雌馬の披裂軟骨・気管粘膜腫瘍による気管閉塞
15歳の繁殖雌馬が、この1ヶ月間どんどん喘鳴がひどくなり、呼吸困難になってきた。
内視鏡を観たら、気管の入り口に腫瘍があって閉塞している。との依頼。
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腫瘍を摘出しても再発する可能性がかなりあるので、永続的気管切開が必要だろう。
永続的気管切開は立位でもできるが、できれば腫瘍の摘出もしたい。そのためには全身麻酔して喉頭切開したい。
披裂軟骨の肉芽だけなら立位でlaserで手術できるが、今回の症例は腫瘍が大きく、しかもできているのは少し奥のようだ。
しかし、気管の狭くなり方はかなりひどくて、気管挿管できるのか・・・・・
鎮静剤投与や全身麻酔すると呼吸困難がひどくなる可能性がある。
そうなったら、すぐに気管切開して、そこから気管チューブを入れてとりあえず気道確保し、
吸入麻酔で維持できるようにしてから落ち着いて手術しよう。という術前計画を立てた。
永続的気管切開だけでなく、緊急の気管切開や気管鏡の装着、喉頭切開や輪状軟骨までの切開など、喉頭や気管を扱ういくつかの手技の経験がある術者と、
何種類もの気管チューブが用意されていて、チアノーゼが出るような状態でも対応できる麻酔担当医がいるので対応できる、はず。
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手術台上で落ち着いて永続的気管開窓術を行った。
この手技は、立位でやったり、静脈麻酔でやったりすることが多いので、吸入麻酔で落ち着いてやるのは初めてかもしれない。
けっこう時間がかかるし、これからは吸入麻酔でやりたい、な。
術者の首と腰が楽;笑 血まみれにならずに済む。
その開窓部から気管チューブを入れておいて、喉頭切開した。
喉頭切開部から披裂軟骨にできた腫瘍を摘出した。
気管にできている腫瘍はもっと大きい。
気管切開創からも指を入れて、特別長いメッツェンバウム鋏で切断し、気管切開創から摘出した。
喉頭切開創だけだと取り出せなかっただろう。
こんなサイズだったから。
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出血があるので、ボスミンガーゼを気管に詰めている。
気管チューブは気管切開創から入れてカフを膨らませている。
血液や粘膜を肺に吸引しないように。
高齢なので吊起帯も着けた。
しかし、この馬、子馬に齧られて尻尾が短い。
それもありなかなか危険な覚醒になった。
肉眼では悪性腫瘍ではないように思うが病理組織検査に出す。
「病理組織学的検査」は家畜共済の点数設定が低くて、外注すると赤字になる。
ホルマリンが漏れないようにするパック代もかかる。
送料もかかる。
それでも正確な診断のためにだいじなことだ。
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電気を取り入れる電柱に付いている開閉器。
塩害で傷んでいる、と電気保安協会から指摘されて交換することになった。
ん十万円する。
交換作業で半日停電した。
それとは別に、北電の工事があった。
これはたまたま重なったらしい。
こちらの電気工事では停電にはならない。
世の中は電気に頼りすぎているかもしれない。
去年の地震によるブラックアウトでも痛い目にあった。
台風による千葉の停電はもっと長くなったようだ。
みなさん、考えて備えておいた方がいいです。
例えば、北海道が真冬に停電したら・・・・暖房はできず、水道は凍結し、凍死者も出るだろう。
都会では何が起こるかさえ、想像もつかない。
私が学生実習に来たころ 4
取り壊されていく研修センター。
私が実習に来たのは昭和58年(1983)だから、診療センターと町立畜産研修センターの開所から8年目ということになる。
その間、毎年10人や20人は学生実習に来ていたと思うので、100名近い獣医科学生が実習に来たはずだ。
しかし、私が就職したとき、この地区の農業共済組合にはここでの実習経験者はいなかった、と記憶している。
実習を経て就職したのは、私が初めて?
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以降は、採用者には実習経験者がたくさん居る。
NOSAIだけではなく、地元の軽種馬農協にも居るし、開業している先生も居る。
馬の業界で、他の地域で働いている実習経験獣医師も多い。
JRAにも、地方競馬にも、牧場にも数多い。
あらためて、責任の重さを感じている。
「ハコモノ」としても必要なものだった。
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これは直腸膣瘻です。第三度会陰裂傷ではありません。
初産で、子馬の鼻や肢が肛門から出て、そのまま生まれてしまうと第三度会陰裂傷になりますが、
押し戻して、陰部から生ますことができたら、直腸膣瘻になります。
直腸膣瘻は、自然治癒することもありますが、今回のようにとても大きく裂けていることもあります。
小さい瘻管が残っている例では、とても見つけづらいこともあるので、しっかり観て、触って診断することが重要です。
直腸膣瘻は直腸と膣の間を切り分けます。
この切り分けが難しく、とても重要です。
そうやっておいて、直腸の穴と膣の穴をそれぞれ別にしっかり縫合します。
術前・術後に絶食し、下剤をかけ、直腸に便が数日来ないようにすることもだいじです。
壊れたら再建する。
いったん破壊してでも、再建します。
やってみよう関節鏡!
関節鏡手術は馬の二次診療施設で最も数多く行われる手術だが、一次診療をしている獣医さんたちはやってみる機会はないし、観にくることもほとんどない。
世界中の馬病院の経営を支えるようになっている関節鏡手術だが、一次診療をしている獣医さんたちが診断して送り込み、術後管理もしている。
しかし、手術手技がどのようなものか体験する機会はまずない。
関節鏡手術が普及することで、馬獣医師が関節を扱うことが飛躍的に増えた。
X線診断もそうだし、関節穿刺や関節洗浄や、関節の麻酔などもそうだ。
私たちも関節鏡手術をやるようになったことで、関節をいじることに抵抗がなくなり、関節鏡手術以外の技術や知識も増えた。
それで、一次診療の獣医さんたちに、「やってみよう関節鏡!」と題して、実技研修を企画した。
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予定の手術を入れないようにして、手術室で解剖体を使って実習してもらう。
まずは飛節(足根下腿関節)から。
手術室からX線室へ器材を移し、手術の途中まで手伝う。
午後は、X線検査室で、腕節(前腕手根関節と手根骨間関節)、球節、蹄関節の関節鏡手術の練習。
関節穿刺の練習になるし、
関節の解剖の知識を確認することになるし、
関節を構成する、関節包、滑膜、軟骨、関節構成骨を刺して、切って、器具で触って、実感として知ることができる。
それらの体験は、今後の臨床に役に立つだろうと思う。
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旧町営畜産研修センターは、煙突を残すだけになった。
まさに瓦礫の山。
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台風19号の被害に遭われた方に心よりお見舞い申し上げます。
地球温暖化による異常気象のひとつなんだろうな・・・・
ポータブルX線撮影装置による成馬の股関節撮影 ワンコも
馬が骨盤を折ってしまうことがあるが、成馬だと撮影のためには大きな線量を出せる大型X線撮影装置が必要だ、とされてきた。
それも、特殊な器材を使うのでなければ、馬を全身麻酔して仰臥にして撮影しないと股関節周囲を描出できない、とされてきた。
が、ポータブルX線撮影装置も、かつては管電圧60kVだったのが、80になり、90になり、線量は増えている。
X線を受ける側も、かつてはアナログのカセッテ・増感紙方式だったのが、CRになり、今はさらに感度が良いDRになっている。
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最新版の関節鏡手術の教科書には、ポータブルX線撮影装置で、股関節周囲を描出できることが、ちらりと書かれている。
立位でのデジタルX線画像。
AとB、管球とプレートの位置。
C、X線画像は右股関節の亜脱臼と初期の骨関節炎を示している。
寛骨臼の頭側部(黒矢印)と大腿骨頭と骨頚(白矢印)に骨棘がある。
股関節の関節鏡による評価、特に大腿骨頭の靭帯を調べる必要があろう。
D、立位で撮影された正常な股関節。
画像は、MinXrayポータブル撮影装置で80kV・2秒で、CanonのCRで撮影された。
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本文で引用文献とされているのは、
Equine Veterinary Journal に掲載された論文。
斜め上から、股関節をかすめるように撮る方法だけ。
画像も良いとは思えないし、
よほど大きな損傷がないと診断価値があるとは思えない。
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私も立位で撮影した股関節のX線画像を紹介したことがある。
ただし、腸骨、恥骨、坐骨のつながりを描出するためには、閉鎖孔が写る画像を撮りたい。
しかし、骨盤は逆「へ」字型をしているために、反対側の腹側から股関節を撮ると、閉鎖孔を覗くような画像は撮れない。
しかし、股関節と大腿骨頭がしっかり写るなら、やってみる価値はあるだろう。
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こちらゴールデンレトリーヴァー7歳の股関節。
左の大腿骨頭が丸くない。
しかし、心配していたように脱臼はしていないし、股関節の骨関節症もひどくはない。
横方向でも、大きな問題はなさそうだ。
でも、歩くとコトコト音がするし、跛行はある程度以上は良くならない。
歩くのを嫌がらないし、元気よく走るし、走るときは跛行はほとんどわからない。