夜、起こされて、これから疝痛馬が運ばれてくるというときに、「新生子馬が骨折しているようだ」との連絡。
話を聞くとどうやら橈骨遠位骨端板の損傷らしい。
「内固定で治療はできるが、競走馬になるかどうかはわからない。
何もなかったように治るとは思えない。」
という回答をした。
いずれにしても、応急処置をしてもらって、明日の朝に対応することになる。
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結局、メスの子馬で、種付け料のフリーリターンも効くのであきらめて安楽殺したとのこと。
翌日、運ばれてきた子馬をx線撮影させてもらい、剖検した。
骨端板、あるいは成長板と呼ばれる、骨が成長する部分が剥がれ、変位してしまっている。
Salter-Harris損傷と呼ぶこともあり、タイプ分けされている。
この子馬はタイプⅠだろう(わずかに骨端板以外の骨片が折れているがあまりに小さいのでタイプⅡではない)。
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屈筋の力で肢が短くなっているので、引張っても変位を戻せない。
腕節の近位の背中側を少し切って、開いてしまっている骨端板に器具を突っ込んで梃子の応用でいろいろやってやっとなんとか整復できた。
完全に整復されると、それだけでかなり安定した。
手術するなら、あとは骨端板をあまり圧迫しない方法でずれないように固定しておけば良い。
骨端板が壊死したり、骨癒合してしまったりして成長できないと、橈骨が曲がってしまったり、短くなったりする。
その可能性が大なのだが・・・・・・
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香港でも教わったペンシルヴァニア大学のRichardson教授にコメントを求めた。
このような骨折は整復するのがとても難しいことがある。骨端が大きく変位してしまっているからだ。
脛骨遠位の骨折はこれ以上に整復が難しいことさえある。
この子馬が競走馬にしなければならないのであれば、彼らはおそらく正しい判断をした。この子馬は未熟なうちに骨端板が閉鎖してしまい、肢が短くなる可能性がかなり高いからだ。このような子馬の予後はもう少し月齢がいっていれば少しは良い。成長への影響が全体的に少ないだろうから。
もし私が今、この症例を治療するなら、背側を切開し、Hohmann整復子をレヴァーとして使って骨端を離して整復する。
整復したら、とても短い(5-6穴)LCPを背側に当てる。それから、もう一枚のとても短いLCPを皮膚の下に最小外科侵襲手技で入れる。
10日間キャストを巻いておき、次の10日間は副木を入れたバンデージを使い、そして内側のプレートを抜くことを考える。
1週間後に2枚目のプレートを抜きたいが、2枚とも同時に抜くかもしれない。
こういう症例での鍵は、とても速く治るということだ。それ自体は問題ではない。
問題は成長板が閉鎖してしまう可能性があり、そうなると橈骨がとても短くなってしまう。
橈骨が短くなると球節があまりに高くなり、前へナックリングし始める。
君はそういう子馬を繁殖目的で助けることができるが、健常状態にするのは難しい。
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この子馬を治せなかったのはとても残念だ。しかし、牧場と担当獣医師の判断が間違っていなかったことを確認できてすこし安心した。
治すとすれば・・・として示された方法は興味深い。LCPとLHSを使うことで圧迫しないで安定した固定ができる。DCPやscrew&wire法ではそうはいかない。
「もし自分が今、治療するなら」と言うのは、かつて別な方法で治療した経験があるのだろう。
橈骨が短くなってしまった症例の経験もお持ちのようだ。
Thank you Dr.Richardson!!
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腕節で外反している子馬の橈骨遠位骨端板を貫くようにスクリューを入れる手術。
橈骨遠位の内側の成長を抑えることで、数週間で外反が矯正される。
子馬の成長はそれくらい速い。
骨としてくっついていない成長板だからこそ成長が可能なのだが、それだけに弱く折れてしまうことがあるわけだ。
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「家畜診療」誌を見ていたら、他地区の研究発表の抄録が載っていた。
脛骨近位骨端を横骨折した子牛を副木で治した発表があったが、「骨端」を「横骨折」するとは考えにくい。
脛骨近位骨端板の離開だったか、あるいは近位骨幹の横骨折だったのではないだろうか・・・