馬は骨折したら治らない。は、過去の話。
多くの馬が手術を受けて競走復帰している。
それでも馬の骨折には難しい要素がいっぱいあり、どんな骨折でも治せるとはいかない。
体重を支える骨がボッキリ折れてしまうと厳しいし、いくつもに割れてしまうとさらに難しい。
ただ、努力は続けられていて、経験は学識としても蓄積されていて、成果もあがっている。
先月、香港でのAO advance courseに参加してそのことを強く感じた。
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粉砕骨折
骨がいくつにも割れてしまうと内固定するのは無理だと考えられていたが、果敢なチャレンジは続けられ、部位ごとに方法と可能性が示されつつある。
中節骨は近位指節間関節を開いて関節面から骨折面を確認し、スクリュー固定したあとLCP2枚で基節骨にとめる。
基節骨がいくつにも割れても、球節と近位指節間関節をつなぐ骨体が残っていたらスクリュー固定する。変位があれば球節を開いて関節面にギャップがないように整復して固定することが大切。
(上の図はいずれもAO online reference から)
中手骨、橈骨、などの長骨もいくつかのピースに割れても内固定することは可能。lag screwで組み立てておいてLCPで固定する。
粉々に粉砕したら厳しいが、かえってlag screwを使わず、LCPをLHSだけで固定する。この場合、LCPは皮膚の中に入れた”外”固定装置としてズレを止めるために働く。
成馬の長骨骨折
成馬ではインプラントの強度が足らず、例えば橈骨骨折は300kgを超えると厳しいことが報告されている。しかし、今回繰り返し実習したのは成馬の橈骨骨折。LCPはかつて使われていたDCPより固定力があり、より分厚い5.5LCPも市販されるようになり、screwも5.5mm皮質骨スクリューも手に入るようになった。
覚醒用のプールや吊起帯を使えるようになっているし、吊起帯は術後管理にも使える。骨折治療は成馬にも可能性は広がっている。
診断機器の進歩
x線撮影は骨折の診断・治療にはつきものだが、つい10年ほど前のように暗室へ現像に行って時間をかけなくてもDRで撮影すれば手術室で画像を見ることができる。
透視装置があれば透視しながら位置や角度を確認できる。
さらには術前検査にCTを使って3次元で骨折を把握したり、術中にポータブルCTを使うことも可能になりつつある。
専門医達の活躍
そしてこれらの先端にいて道を切り開いているのは馬外科専門医の中でもさらに整形外科を専門に取り組むスペシャリスト達だ。彼らの病院にはプールを含めた施設があり、器具器械が揃っていて、スタッフが居る。
そこには通常の患畜以上に整形外科の症例が集まっていて、経験が蓄積されていく。
その経験から重要なポイントが整理・分析され、世界中へ普及されるべく教育・啓蒙活動が行われている。
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個人の熱意と創意工夫は全ての基本だが、もう見よう見まねでやってみる時代ではない。
学ぶべき方法で学ぶべきことを学び、練習して身につけた上で、理論にのっとって治療することではじめて今まで治せなかった馬の骨折が治せる。
エキサイティングな時代でもあり、いっそう努力と精度が要求される時代になってもいる。
ということが香港で感じたこと、カナ?
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AOのwebsiteでは馬の各部位の骨折のパターンによって治療方法が解説されている。
症例に遭遇したとき、それから教科書や文献を調べていたのでは間に合わないから。というのはsite開設の理由として述べられている。
しかし、それに頼って手術することはできないというAO Vet equine によるセルフつっこみの漫画。
お料理のレシピが公開されているwebsiteと違って、観ながら手術することはできません。