某社の獣医学の教科書の頼まれ原稿を提出したら、「症状」という記述のすべてを「徴候」と修正されてきている。
見出しも、【症状】ではなく、【症状・徴候】となっている。
symptom 症状、というのは患者によって認識される病の状態なので、獣医臨床ではありえない。???
ということなのだそうだ。
だから、sign 徴候、を使っていこう、ということなのだそうだ。???
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と言われても、現在のところ、私は納得できないし、おおいに違和感がある。
「徴候」という言葉を、日常の診療の中で使うことはない。
獣医師同士の専門用語としても使わない。親しみがない。
「徴候」という言葉は、”きざし” だから、軽度という観念が含まれていると思う。
重度の徴候、とか、ひどい徴候、とかには矛盾を感じる。
「徴候」という言葉には、初期、前段階の、これから、という観念も含まれていると思う。
末期症状、とは表現できるが、末期徴候と言った場合は、これから末期になるであろう”きざし” という意味ではないだろうか。
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長年使ってきて、親しみのある「症状」という用語を使わないようにしよう、というのも納得がいかない。
症状とは”病の様子” であり、自己認識がなければありえないものではないだろう。
symptom がまずいというなら、それは「自覚症状」のことであり、symptom = 症状、という翻訳がおかしいのではないか。
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馬が発汗し、前掻きし、転がりまわる。
それらは、それぞれが徴候 sign である。というところまではわかる。
痛い、という自覚症状は、馬と言葉で話せない畜主にも獣医師にもわからないのだから、獣医臨床にはsymptom はない。
と言われているのだ。
実験動物しか扱わない基礎獣医学の分野から出てきた学問上の指摘が元になっているんじゃないだろうか??
馬が痛がっている、犬が苦しんでいる、それは獣医臨床にはない、と言ってしまっていいとは思わない。
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ヒト臨床では、主訴 Chief Complaint といって、患者さんはどう言っている、というのを重視する。
カルテ(診療記録)の記載でも、SOAP ; Subjective, Objective, Assessment, Plan の最初に記述される。
獣医臨床でもこれは使われていて、Subject 主観的所見、から記述する。
獣医臨床では、畜主がどう言っているか、になるだろう。
「症状」”symptom”は無い、と言って、Subjective 所見を書かず、いきなり「徴候」”sign” から始めるのか??
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その教科書の編集方針はもう決まっていて、私が反対したところでどうなるものでもないので、
私は自分の文章として納得できなければ、自分の記述をすべて撤回して削除してもらうしかないだろう。
馬の苦しみも痛みもわからない、と言われて納得したのでは、馬たちに申しわけが立たない。
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ゆり。派手。
園芸種の品種改良のせいか?
たいして肥料を与えていないのだけれど。