生まれて1ヶ月の子馬が、生後から乳が鼻から出てくる、との相談だった。
軟口蓋裂を疑う必要があるので来院してもらって内視鏡検査。
しかし、軟口蓋は大丈夫。
食道に内視鏡を入れると、食道が弛緩し、乳が食道内に溜まっている。
頚部と胸部で食道を追うようにX線撮影してみた。
食道は内容がないと、X線画像には腔としては写らないのだが、ところどころ液が溜まっているのが写る。
・・・・右の大動脈弓の遺残か??
自分で症例で確かめたことはないが、右大動脈弓が遺残すると食道が締め付けられて通過障害が起こることがある、らしい・・・
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その後も症状は改善されない。肺炎症状も出てきた。
とのことで、あらためて食道の造影撮影をするために来院してもらった。
頚の付け根。
経鼻カテーテルの先が写っている。
胸部ではちょうど心嚢の背側を通るあたりから造影剤が途切れている。
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右大動脈弓の遺残では手術した症例が報告されている。
最新の報告。
Computed tomography assistede surgical correction of persistent right aortic arch in a neonate foal
Equine Veterinary Education, Feb, 2006, 40-44
Wisconsin-Madison大学からの報告。
2日齢のアラブの雄子馬が呼吸困難と、乳が鼻から逆流する、という症状で入院。
肺炎の治療を数日行った後、開胸手術して、肺動脈と右大動脈を結んでいたligamentum arteriosium を切除した。
症状は消失し、この子馬は順調に見えたが、
3ヶ月後、離乳の翌日に死亡しているのが発見された。
剖検したが、死因はわからなかった。
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馬では予後は良くないとされている。
飼い主さんも、われわれも逡巡した。
日を改めて手術してみるか、と考えたが、結局あきらめることになった。
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犬では25症例の回顧的調査で92%で、とても良好な長期経過が報告されている(Muldoon,MM, 1997)。ただし、13頭では巨大食道症が認められている。
馬では、5症例の右大動脈弓遺残が報告されている。
3症例で手術が行われていて、1例は3ヶ月以上生存し、10ヶ月後も良好だった。
1例は手術後すぐに化膿性肺炎で死亡した。
食道を食べ物が流れていきやすいように、人みたいに椅子に座らせて食事させる。そして、しばらく座らせておく。
馬は・・・・そうはいかないよね。
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今回の子馬は剖検してみた。
しかし、心嚢を開いても心臓血管は正常で、右大動脈弓の遺残ではなかった。
誤嚥による右肺後葉下垂部を中心とした化膿性肺炎が始まっていた。
肺付属リンパ節も腫れあがっていた。
胸腔の縦隔にあるリンパ組織が大きくて食道を持ち上げているようだった。
別な要因による食道機能不全も、馬にはあるらしい。
Yoshi先生が文献を見つけてくれた。
Megaesophagus in the horse. A short review of the literature and 18 own cases
Veterinary Quarterly; 24:4, 199-202
オランダからの報告。
18症例のうちの1症例だけが右大動脈弓遺残だった。
予後は、poor。
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私は、1歳馬で食道弛緩症を診せられたことがある。
どうしようもないでしょう、と言うしかなかった。
それは間違ってはいなかったのだが、胸焼け、モヤモヤが残る。
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ときどき青草を食べていたのは、胸焼けだったんだろうかね。