遠方から、重種馬の26日齢の子馬が中足骨成長板を骨折している、との相談。
翌朝、連れてきてもらうことになった。
まあ~親子そろってでかい。
子馬は146kgあった。
重さ、骨の長さ、太さがイメージできないと内固定のプランニングがしにくい。
私たちはサラブレッドを基準に考えてしまうが、150kgのサラブレッドよりずっと骨は太かった。
前日にX線画像を送ってもらって、骨折の具合 configuration はだいたい把握していた。
典型的なSalter-Harris type 2 損傷。
外側から親に踏まれたのだろう。
球節近くで肢は外反してしまっている。
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・キャスト固定で治らないか?
絶対治らない、とは言えない。しかし、整復がとても困難で、ある程度整復できてもそれを維持するのもまた困難。
肢は曲がってしまうし、内側成長板は機能を失うだろう。球節にも機能障害が残るだろう。だって横から見ると
こうだから。
そして、キャスト固定が長期化すると屈腱が弛緩し、それも致命的障害になりかねない。
・Screw&Wireによる固定とキャストの併用、あるいはピンとキャストの併用はどうか?
これは成書にも載っている方法。しかし、内固定としては安定性がなく、キャストを併用してもキャスト内でずれてしまう可能性がある。
・プレート固定するリスクは?
剥がれた成長板が機能を失う可能性大。これはプレート固定すれば、ということではないが、compression をかけるわけにはいかないだろう。
皮膚切開が長くなり、インプラント(screw、plate)の量が多くなることで、感染のリスクが増大する。ただし、minimally invasive technique で手術するなら感染リスクを下げられる。
narrow plate 1枚だと本当は強度は十分とは言えない。本来60-100kg程度の体重で、術後ベッドで寝て暮らす人用に設計された内固定器材だから。
しかし、broad plate を使っても骨端にはscrewが1本しか入らないことは変わらず、固定強度はさほど強くならない。
・プレート固定するならDCPかLCPか?
骨端にはscrewが1本しか入らない。そのscrewとプレートを角度も固定できるのはLCPとLHS。
このような骨端部の骨折ではLCP/LHSの優位性は間違いない。
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というわけで、LCPで内固定するように準備していた。
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骨端部の良い位置に良い角度でscrewをいれなければならない。
aiming device を使う。
そして、そのドリルは変位を整復するのにも使おうと考えた。
できるだけ整復できるようにこじておいて、骨鉗子をかける。
なかなか整復するのは難しい。
そして、この状態だとLCPを入れられない。
今度はminimally invasive に皮下にLCPを刺し込んでおいて、ドリル孔をLHS用にする。
そして、またこじる。
患肢はホイストにぶら下げて牽引している。
三角のピースに向けてドリリングし、lag screw としてLCPで骨を押しつけてみることにした。
2本のlag screw を交互に締めると、骨折線が圧迫され、骨幹端の変位もかなり整復された。
あとは近位部にscrewを入れるだけ。
LCPの近位が少し浮き上がっているので、それを押さえるために一番近位は5.5mm cortical screw を入れることにした。
残りの2つの孔はLHS。
遠位から2番目の孔は empty になってしまうが、これは仕方がない。
骨はかなり柔らかい。
セルフタップでない4.5mm・5.5mm cortical screw もさほど抵抗なく入った。
背-底方向の変位も、これなら許容範囲だろう。
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術後は half limb cast を装着した。
1週間ほどキャスト固定を併用してもらう予定。
また、遠方まで帰ることになる。
LCPとScrewは6週間で抜く予定。
その前にX線撮影してもらう。
うまく行けば、今回剥がれてしまった成長板の機能も残るかもしれない。
内側が剥がれたのだし、内側を内固定しているので、内側が成長できず肢は内反してくるかもしれない。
しかし、まだ外反しているので、ちょうど良くなる可能性もある。
プレートを抜く時期は、厳密には難しい判断かもしれない。
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午前中に予定していた他の手術は延期してもらった。
午後は、2歳馬の喉頭片麻痺のTieback&cordectomy
子馬の肢軸異常のscrew removal と思ったが、もう少し矯正を続けることになった。
夜、繁殖雌馬の結腸変位の開腹手術。
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染井吉野がことしはいっぱい咲いた。
植えて・・・7年。
成長とは時間がかかるものだ。