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膵臓障害のミステリー 2 成書の記載

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馬の疝痛と膵臓障害について成書にはどう記載されているか・・・

                         -

Equine Surgery, 4e Jorg A. Auer Dr Med Vet MS,John A. Stick DVM

Saunders

馬外科医のバイブル、Auer先生のEquine Surgeryには・・・・・・

記載がない。

まあ、消化器だけでなく、運動器も、眼科も、繁殖関係も、呼吸器も、すべて網羅した本なのでページ数も限られるし、

外科手技に重きをおいているので手術の対象にならない疾患は記載されていないのだろう。

                          -

では馬内科学の決定版、Equine Internal Medicine には・・・・

これもほとんど記載がない。

Equine Internal Medicine, 3e Stephen M. Reed DVM Dip ACVIM,Warwick M. Bayly BVSc MS PhD Dip ACVIM,Debra C. Sellon DVM PhD DACVIM Saunders

膵臓は消化器官であると同時に、血糖値をコントロールするインシュリンの分泌器官として重要なので、糖尿病との関係で記載されているだけ。

                         -

では馬の疝痛についてのバイブル、White先生のEquine Acute Abdomenには・・・・

Equine Acute Abdomen Nathaniel A. White,James N. Moore,Tim S. Mair Teton NewMedia

これは膵臓の項があり急性膵炎と、慢性膵炎およびインシュリン依存真性糖尿病について記載されている。

このような成書は担当の執筆者が過去に発表された学術報告に基いて記述するものなのだが、

急性膵炎についての記載で引用されている文献はひとつだけ。

「急性膵炎は馬の重度の疝痛のまれな原因である。」

原典は・・・・・Current Theraphy in Equine Medicine 2nd ed.

Current Therapy in Equine Medicine 2 N. Edward Robinson W B Saunders Co

このシリーズ化された馬臨床の教科書は最新刊は7版まで出版されているが、

急性膵炎の記載は第2版にしかない。

書いていたのはJill J.McClure。

どうやらEquine Acute Abdomenの急性膵炎の記載も、ほとんど彼女の記述を踏襲しているらしい。

Jill J.McClureの急性膵炎についての記載はとても貴重なものだ。

                      -

以下、抜粋と要約。

馬の急性膵炎が、ひどい疝痛、胃の膨満、ショックに特徴づけられること。

生前診断が難しく、開腹手術でも膵臓は目視できず、剖検でも見過ごされ易いこと。

馬の急性膵炎の原因は不明だが、小腸閉塞による腸液の逆流も原因になるかもしれないこと。

急性膵炎の特徴は中程度から重度の疝痛、循環性ショック、胃拡張、脱水、心拍数増加、呼吸数増加、CRT延長、粘膜充血、末梢の冷感、発汗。

検査室での検査としては、血清アミラーゼ、血清リパーゼ、腹水アミラーゼ、アミラーゼ・クレアチニン排泄比などがある。

剖検で確認された膵炎の症例は、しばしば700から1000 IU以上のアミラーゼ値を示す。

治療は胃破裂を防ぐための胃の減圧、輸液、など。

急性膵炎の馬の予後はプアだが、これは多くが剖検で見つかることから来ているかもしれない。

適切な臨床病理診断が普及すれば内科治療に反応する疝痛が膵炎によるものであることが確認されるようになるかもしれない。

                        -

さて、さらにこの記載の元になった学術報告を調べてみたい

(つづく)

 

 

 


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