生前診断することが難しく、膵臓は手術でも目視することが難しく、剖検では見過ごされ易い膵臓障害。
では、臨床病理検査として可能性があるアミラーゼとリパーゼを測定する診断価値は?正常値は?
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検索してみても報告はほとんどない。
ずっと古くてWashington州立大からの短報が1991年にEquine Vet Jに掲載されている。
掲載されたときには報告者は、それぞれオーストラリアや他の大学へ移っている。
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Serum and peritoneal fluid amylase and lipase reference values in horses
馬の血清と腹水のアミラーゼとリパーゼの参照価値
Parry B.W. and Crisman M.V.
Short Communicationで要約がないので、以下私の抜粋。
緒言
急性膵臓壊死(出血性あるいは壊死性)は馬ではまれである。
比べて、慢性の間質性膵炎、これは馬円虫の幼虫の感染に関係しているが、よく見られる。しかし、臨床症状を示さない。
結果として、慢性の間質性膵炎は馬ではめったに気づかれることがない。
さらに、馬の内科学の教科書には膵炎の記述が乏しく、それゆえに、臨床疾患としてはまれであると思われる。
しかし、McClure(1987)は、適切な臨床病理検査ができなかったり、行われなかったために診断されなかった症例があるかもしれないことを提言している。
膵炎は、高脂血症を伴う症候群を示したポニーの剖検においても記載されている。
血液のアミラーゼとリパーゼは馬ではめったに測定されない。
McClure,Adams,Goff(1982)は、近位空腸炎/十二指腸炎と他の疾患の馬での血清アミラーゼ値と、アミラーゼの尿中フラクション排泄を調べた。
彼らは近位空腸炎の馬9頭のうち、血清アミラーゼとアミラーゼ尿フラクション排泄が、それぞれ67%と89%で増加していたことを見つけた。死亡した6頭では肉眼や病理組織で’あきらかな膵炎’はなかった。
馬で血液と腹水のアミラーゼとリパーゼを参照するための情報が不足しており、獣医学的にこれらの検査が価値がある可能性があることから、この研究を始めた。
材料と方法
供試馬は17頭。
成績
血清アミラーゼ 平均値 21±6 IU/L 腹水アミラーゼ 5±4
血清リパーゼ 平均値 58±19 IU/U 腹水リパーゼ 14±12
考察
膵炎は馬の高アミラーゼ血症の唯一の原因ではない。
McClureら(1982)は近位空腸炎の9頭の67%と、ほかの原因による疝痛症例11頭のうち27%が高アミラーゼを示したことを報告している。
剖検されたときにいずれの馬も肉眼、あるいは病理組織検査で膵炎の所見がなかったので、膵炎はこれらの症例の高アミラーゼ血症の原因とは考えにくい。
高アミラーゼ血症の他の2つの原因として考えられるべきなのは、腸管粘膜細胞の損傷と原発の腎障害である。
この2つは犬において血中アミラーゼ活性の増加の原因としてよく認識されている。
腸管粘膜損傷と腎前性窒素血症と尿細管損傷は、いずれもMcClure(1982)の症例のほとんどで認められた。
それゆえに、高アミラーゼ血症(と尿中アミラーゼのフラクション排泄の増加)の原因と考え易い。
Ricoら(1977)は馬の腎臓、肝臓、そして膵臓が高いγGTP活性を持っていることを報告している。
McClureら(1982)は彼らの研究の高アミラーゼ血症を示した馬が正常な血清γGTP値を示したので、膵炎を診断から除外できるかもしれないと示唆した。
しかし、腹水中のγGTP活性は彼らの研究では測定されていない。
腹腔臓器の障害を持つ馬の検査で、血清と腹水のアミラーゼは常に他の検査値と臨床所見と関連付けられるべきである。
馬の膵炎の臨床的特徴は(とくに疝痛馬では)不明である。
血液と腹水のアミラーゼとリパーゼ測定はその診断に有用であると思われる。
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McClureの1982年の報告を受けて、アミラーゼとリパーゼの正常値を血清中と腹水中で調べてみた、という文献。
つまるところ、血清中アミラーゼやリパーゼが高いからと言って、膵炎とは断定できない、と考察している。
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私が経験した症例は、血清アミラーゼ761IU/L、リパーゼ580IU/L、残念ながら腹水は採取しなかった。
そんなに腹水増量しているとも思わなかった。
血清アミラーゼとリパーゼが、正常値の数十倍に上昇していたのは間違いない。
McClureはCurrent Therapy in Equine Medicine 2で剖検で膵炎が確定診断された馬はしばしば700-1000IU/Lを示すことを記載している。
私が経験した症例は膵臓障害があったと考えて良いと思うが、それが原発疾患だと断定するつもりはない。
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膵臓障害のミステリーについて・・・・つづく。