夜、10時過ぎに起こされる。
その時間は私は熟睡中だ。
朝3時に分娩した繁殖雌馬が、夜8時から疝痛をしている。フルニキシン投与して軽減したが、まだ痛い、とのこと。
分娩後の結腸捻転の可能性もあるな、と寝ぼけた頭で考えて、急いで診察と手術の準備をする。
夜道を馬運車で急いで来れば、40分ほどで来るかもしれない。
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が、1時間経っても来ない。
電話で訊くと、離れたところへ馬運車を取りに行ってから出たとのこと。
よくある話なのだが、トラックに「箱」を積んでないとか、スノータイヤを履いてないとか、馬運車は借りに行ってからそっちへ向かうとか・・・・
こっちも何時に着けるのか訊けば良いのかもしれないが。
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来院すると疝痛はないが、不穏感。心拍66/分。
血液検査ではPCV43%(さほど高くない)が、乳酸値6.1mol/l(とても高い)。
直腸検査すると、子宮のむこうに腸管でも、子宮そのものでもない塊状物に触れた。
ほかに膨満したものや緊張したものはない。
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あらためて馬の年齢を訊くと14歳とのこと。
まだ子宮動脈破裂しやすい年齢ではないが・・・
超音波で体表から腹腔内を観ると、不整形、不均一な質感、内部で流動性がある大きな塊が見えた。
巨大な血腫だ。
腹水は多くないので、子宮の漿膜下と、子宮広間膜にできた血腫は破裂してはいないのだろう。
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馬はしきりにフレーメンを繰り返すようになった。
口粘膜はベージュ色。
子宮動脈破裂を止血する方法はない。
子馬を置いてきている牧場へ帰っても良いが、輸送するのもお勧めできない。
できるだけ安静にして血が止まるのを期待するしかない。
説明して入院厩舎へ入れる。「ゆっくり行ってね」
日付が変わる頃だった。
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朝、6時前の血液でPCV31%。
血小板も10万以上ある。
すこし口粘膜はピンクを感じられる。
心拍60/分。
前搔きは続いているのでフルニキシン投与する。
動脈の出血が続いていたらもう死んでいるだろうから、一旦は止まったのだろう。
再出血を防いでくれることを期待してトラネキサム酸を注射する。
「迎えに来てもらって帰りましょうか。」
「でも疝痛したり、突然死ぬかもしれないので、子馬を怪我させないように気をつけて。」
この2-3日を乗り越えれば生き延びるかもしれない。
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午後から様子がおかしくなり、夕方には死んだそうだ。
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分娩後の疝痛では、子宮動脈破裂も念頭において、口粘膜の貧血を評価する必要がある。
ただ、結腸捻転でも白っぽくなることがあるので、貧血が進むまで判断は難しい。