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腕節のchip fractureの重症度を決める因子

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引き続き腕節のchip fractureの重症度は何で決まるか?について考えてみたい。

McIlwraith先生の本には、Case selection, prognosis, and results 症例の選択、予後、そして結果、とされた項の中に、次の一文がある。

Cases should be assessed on an individual basis taking into account causation, predisposing factors, size and location of fragments, pathologic changes in the parent and other carpal bones, and presence of other lesions within the joint.

症例は1例ごとに、骨折を引き起こした原因、骨折を起こしやすくする要因、骨片の大きさと部位、骨折母骨と他の腕節構成骨の病理学的変化、そして関節内の他の病変の存在に基いて評価すべきだ。

account causation 責任ある・原因

とは、たいていははっきりさせるのは難しいが、その馬にとって最高スピードで競走したとか、路面が荒れていてミスステップしたとか、だろうか。

predisposing factors 起こしやすくする要因

とは、腕節が反っているなどの相馬conformationの問題とか、アンダーランヒールなどの蹄の問題や、以前にもその関節を傷めている、あるいは手術歴があるとか、などのその馬個体の問題だけではなく、

あまりに競走・調教が続いているとか、あの競馬場のあのコーナーはよく骨折が起こるところだとか、

数えあげたらきりがないかもしれない。

ただ、再発しないか、手術後に術前に劣らない競走成績をあげられるか、を考える上でも重要なことだ。

size and location of fragments 骨片の大きさと部位

骨片の大きさはたしかに重症度に関係する。小さいよりは大きいほうがひどいのは間違いない。

ただ、骨片の大きさより部位の方が問題かもしれない。

腕節の骨折でも、橈骨外側関節面と橈側手根骨遠位の骨片を大きさで比べることはできない。

私の経験でも橈骨外側関節面の骨折は2-3歳の比較的若い競走馬に多く、橈側手根骨遠位の骨折は3,4歳以上と年齢層が高い競走馬に多い。

橈骨外側関節面はミスステップなどのアクシデントで起こることが多いが、橈側手根骨は調教や競走を繰り返すことで骨や軟骨が傷んだ結果として折れることが多いように思う。

当然、橈側手根骨の骨折の方が予後が懸念される。

そのことは関節の中を関節鏡で観察し、さらには骨や軟骨を処置していても感じることだ。

pathologic changes in the parent and other carpal bones 母骨や他の腕節構成骨の病理学的変化

骨折を単に偶発的事故(たまたま)としかとらえていない関係者もいるかもしれないが、どちらかと言うと偶発的事故というより必然的結果(起こるべくして)としての要因の方が大きいのかもしれない。

私は必ず反対肢の同じ部位もx線撮影することにしているが、かなりの率で反対肢にも骨折や病変を見つける。

折れ易い馬、折れ易い環境要因、というのがあるのだ。

病理学的変化として母骨は骨梁が密になりすぎて硬いがもろく割れ易くなったり、あるいは血行を失ってスカスカボロボロになったりする。

関節軟骨は傷つくともう健康な硝子軟骨は再生せず、線維性の軟骨としてしか修復されない。

and presence of other lesions within the joint そして関節内の他の病変の存在

そして、関節は骨関節炎、あるいは変形性関節症と呼ばれる変化が進行する。

「骨膜でてる」と表現されることが多いが、それは骨関節炎とか変形性関節症の一現象にすぎない。

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大和先生が亡くなったことを聞いた。

間違いなく日本の馬臨床に貢献した人だ。

例えば子馬の肢軸異常の手術は大和先生が日本で初めて取り組んだ。

手術をしに来た海外の馬外科医は「獣医師には手術を見せない」というケチな奴で、

「俺は獣医師じゃない、テクニシャンだ」と言って手術を観たんだ、と言っておられた。

それでも、後で私にはその手術手技についての文献集をくれた。

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いまだに大和先生しか成功したことがない手術や、やろうとしたことがない手術もある。

今よりはるかに環境も整っていなかった時代。

夢を追いながら、周囲を引きずるように前へ進むにはあの強引さと胆力が必要だったのだと思う。

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酔って、McIlwraith先生に、

「俺の関節切開手術はなんの問題もなかった。関節鏡手術など必要ない。」

と絡んだ姿を思い出す。

そんな人は世界中に、後にも先にもいないだろう。

ご冥福をお祈りする。

 

 

 

 


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